地盤の崩壊を防ぐ補強土の研究

地盤の崩壊を防ぐ補強土の研究

斜面と地盤の災害

がけ崩れ、地すべり、土石流といった災害を、一般的に「斜面災害」と言います。日本は降雨による斜面災害が多い国です。地盤の強度特性は、高校でも習う摩擦則と同じように説明できるもので、地盤をせん断させようとする力は、土粒子同士が接触しあう力(有効応力)と摩擦係数で決まります。一方、豪雨が降ると、地下水が上昇します。すると、土の間隙に水が入り、浮力が生じて有効応力は低下します。それによって地盤の強度が低下し、あるレベルを超えると崩れるのです。私たちの家や道路・鉄道など、生活の多くは土を盛り上げた「盛土」の上に成り立っていて、これも降雨や地震で被害を受けやすいことが過去の経験から指摘されています。そこで、このような斜面や盛土をもっと強い構造にする研究が古くから行われてきました。

補強土とは

その技術の一つが「ジオシンセティックス補強土」です。これは、引張りに強い補強材を盛土地盤の中にサンドイッチ状に敷設し、擁壁と結合する方法です。この補強材が敷設されると、補強材とその上下の地盤の間に摩擦が生じます。補強材と盛土地盤のかみ合わせが強いほど、補強材の敷設長が長いほど、盛土の構造は安定します。地震が発生すると盛土は崩れようとする力が働きますが、補強材があるため崩れません。補強材がしっかり擁壁に結合していれば、逆にその力が反力となって盛土自身を締めつけ、強さが増します。これは地盤が動こうとする力を上手に利用した合理的な構造物です。

新しい補強材の研究

一般的に利用されている補強材は平面的な構造ですが、現在は立体的な構造の補強材の研究も行われています。補強材の盛土からの引抜き実験を行うと、従来の補強材は、盛土の粒径がある程度以上大きくなると引抜け強度が低下してしまうのに対し、立体構造の補強材はそのような傾向が出にくくなることがわかりました。こうした強い補強盛土が普及すると、従来の盛土の安全に繋がるだけでなく、津波で堤防が決壊するのを防げるのではないかと期待されています。

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先生情報 / 大学情報

東京大学 生産技術研究所 基礎系部門 准教授 清田 隆 先生

東京大学 生産技術研究所 基礎系部門 准教授 清田 隆 先生

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土木工学

先生が目指すSDGs

メッセージ

防災に関する研究は、たとえ直接的ではなくても、人々の生命や社会基盤を自然災害から護っているんだ・・・と感じることのできる、誇りを持てる仕事です。
私は高等専門学校卒で、20歳で地質調査会社に就職しました。そこで地盤・地質に興味を持ち、徐々に知識を得て現在に至っています。高校生のあなたには、やりがいのある仕事を見つけるには、いろいろな道があるということも知ってほしいです。大事なのは、知識を得ることに喜びを持てるようになること。勉強を勉強と思っているうちはまだまだです。

先生への質問

  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

東京大学に関心を持ったあなたは

東京大学は、学界の代表的権威を集めた教授陣、多彩をきわめる学部・学科等組織、充実した諸施設、世界的業績などを誇っています。10学部、15の大学院研究科等、11の附置研究所、10の全学センター等で構成されています。「自ら原理に立ち戻って考える力」、「忍耐強く考え続ける力」、「自ら新しい発想を生み出す力」の3つの基礎力を鍛え、「知のプロフェッショナル」が育つ場でありたいと決意しています。