感想をエビデンスに! 「シチズンサイエンス」で温泉を研究
効能のエビデンスをとるのが難しい温泉
温泉大国の日本には、古くから「湯治」といって、温泉につかることで健康になろうとする文化があります。また、レジャーとしても温泉は日本人にとっておなじみの場所です。
温泉はお湯に含まれる成分によって、「単純泉」「硫黄泉」など10種類の泉質に分けられており、「冷え性に効く」「疲労回復」などの効能がうたわれています。しかし、この効能は成分から推測されたものであり、その温泉が本当に病気を改善する効果があるか、厳格な手順による実験でエビデンスを取るのはなかなか難しいのです。
AIを使った「シチズンサイエンス」とは?
通常、医薬品の効果についてエビデンスを取る場合、本物の薬と体に影響のない偽薬を全く同じ色と形でつくり、被験者がどちらかわからないようにしてデータを取ります。しかし温泉の場合は、入った人が本物の温泉と偽の温泉との違いに容易に気づいてしまいます。そのため、医薬品のように正確なエビデンスが取りにくいのです。
そこで、精度の低さをデータの数でカバーできる「シチズンサイエンス(市民科学)」という研究手法が注目されています。温泉を訪れる何万人という人にアンケートを実施して、AIの「テキストマイニング」という方法を使って感想の文章を解析します。そして「肩こりが取れた」「気持ちよい」などの言葉を抽出することによって、その温泉の効果に対するエビデンスを補強する手法です。
温泉の新たな魅力を地域振興に生かす
このようなAIによる言葉の分析では、人が温泉に何を求めているかといった調査もできます。今、検討されているのは、外国人観光客など文化的背景の違う人の温泉嗜好の解析や、効能・健康増進以外の日本人が得意とするコダワリの「温泉の楽しみ方」の体系化など新しい温泉地振興策の研究です。こうした研究が進めば、温泉の未発見の魅力を開発して観光客をさらに増やすことで地域の活性化につながると期待されています。
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東海大学 人文学部 人文学科 教授 斉藤 雅樹 先生
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