海底にすむ生物たちが、海の酸性化を教えてくれる!

海底にすむ生物たちが、海の酸性化を教えてくれる!

環境の影響を受けやすい底生生物

水生生物のうち、カニや貝類など、水の底や泥の中などに生息する生物は底生生物と呼ばれています。底生生物は、水中を泳ぎ回る魚などに比べて移動能力に乏しいため、環境の変化に強く影響を受けるという特徴があります。つまり、底生生物の生態や分布を調べることで、環境変化の指標にすることができるわけです。例えば、東南アジアのマングローブの林には、干潟とは異なる底生生物が生息しています。生物種の構成と環境条件の対応関係を調べていくと、どのように独自の生物相が維持されているのか理解することができます。

海が酸性化するとどうなる?

大気中の二酸化炭素(CO₂)の増加は、地球温暖化以外に、「海洋酸性化」という問題も引き起こします。人間の活動によって排出されたCO₂の約4分の1が海洋に吸収されると言われていますが、CO₂が過剰に溶け込むと、海水はわずかながら酸性の方向に傾きます。現在の海表層のpHは8.1程度ですが、このまま酸性化が進むと今世紀末にはpH7.7を下回ると試算されています。貝の殻やサンゴの骨格は炭酸カルシウムを主成分としており、海洋酸性化が進めば、殻が薄くなるなどの負の影響が表れるでしょう。直接的な被害を受ける貝類だけでなく、貝を食べるほかの生物にも大きな影響を及ぼすことになります。

生態系は丸ごと評価する必要がある

こうした影響を科学的に考えるにはその環境下での実験をすることが望ましいですが、生態系は、対象のごく一部ではなく、全体を丸ごと評価する必要があります。つまり自然状態で酸性化している場所があれば、そこを調べればいいのです。近年、海底からCO₂が噴出し、酸性化が進んだ海域があることが発見されました。「CO₂シープ」と呼ばれるこの場所に住む底生生物を調査すれば、海洋酸性化によってどんな生物が増え、どんな生物がいなくなるのかなどを予測することができます。このような研究が、環境改善と海洋資源の保全につながっていくのです。

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先生情報 / 大学情報

東京海洋大学 海洋資源環境学部 海洋環境科学科 准教授 今 孝悦 先生

東京海洋大学 海洋資源環境学部 海洋環境科学科 准教授 今 孝悦 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

生態学、環境学、生物資源保全学

先生が目指すSDGs

メッセージ

高校生とは、可能性の塊だと思います。あらゆることができるので、ぜひいろんなことにチャレンジしてみてください。苦手だと思うことでも、やってみるとうまくいくこともあります。また、うまくいかなくても、その経験は必ず生きてくるものです。
私の研究でも、生物学的な知見だけでは足りないことがあります。海水中の二酸化炭素濃度は化学、波の影響は物理学、マングローブの伐採は社会学というように、考えるためにはさまざまな知識が必要になります。感性が豊かな今、多様な視点を養えるよう、経験を積んでください。

先生への質問

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東京海洋大学は、全国で唯一の海洋にかかわる専門大学です。2大学の統合により新しい学問領域を広げ、海を中心とした最先端の研究を行っています。海洋の活用・保全に係る科学技術の向上に資するため、海洋を巡る理学的・工学的・農学的・社会科学的・人文科学的諸科学を教授するとともに、これらに係わる諸技術の開発に必要な基礎的・応用的教育研究を行うことを理念に掲げています。