遺伝に関する情報が蓄積されているキイロショウジョウバエ
同じ種でも遺伝子は違う
生物は同じ種でも遺伝子レベルで見ると違うところがあります。例えば、生息地域ごとに異なる組み合わせの塩基があり、遺伝子の発現に対して異なる制御を受ける場合があります。キイロショウジョウバエは高地では黒く、温かい地域では淡く白い体色です。これは体色を司る「エボニー遺伝子」の発現量が違うためです。このエボニー遺伝子はドーパミンなどの神経伝達物質を介する機能にも影響を及ぼしているため、行動パターンの違いも生み出します。また、キイロショウジョウバエは交尾の際、雄が羽を震わせるなど複雑な求愛行動を行います。そのとき、クチクラ(外骨格を形成する生体物質)に触れて交尾相手を認識するのですが、例えばフェロモンの合成に関わる遺伝子の構成が変わると相手を選ぶ際の好みのパターンも変わるのです。
研究に適したキイロショウジョウバエ
キイロショウジョウバエは人家の近くに生息しているため、20世紀初頭から多くの遺伝学者が研究題材として使ってきました。そのため遺伝に関するノウハウが豊富に蓄積されており、人為的なノックアウト(特定の遺伝子を破壊すること)やノックダウン(発現量を抑えること)、入れ換えなども容易になっています。しかしキイロショウジョウバエの近縁種でも遺伝学研究のノウハウが当てはまらないことがあるため、このハエでしかできない実験もたくさんあります。
遺伝子を組換えるには
放射線などで外部から遺伝子を変化させることもできますが、その方法だと変化させたのがどの遺伝子であったのか、特定しにくくなります。そのため普通は遺伝子組換えを仲介する特別なDNA塩基配列に挿入した遺伝子を卵に注入し、目的とするハエの遺伝子に変化を起こさせた後、その変化によって生じた生物現象を調べます。光るマーカーなどを使って特定の遺伝子がどの組織に発現しているかを調べることもあります。原理的にはほかの生物でも、細かな技術的な問題や倫理的な問題をクリアすれば、類似の方法で遺伝子を組換えることが可能です。
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