「食べる」ことと「出す」ことから、人と社会のあり方を考えよう
「生きる」ことと切っても切り離せないテーマ
「生きる」ことについて考えていく上で、「食べる」ことと「出す」ことは、切っても切り離せないテーマです。地理学や経済学、社会学などの分野で、これらのテーマに注目して研究していくと、さまざまな示唆に富んだ事実に行き当たります。
織工たちと周辺農家との循環的な関係
大正時代、愛知県北西部の尾西織物業地域にあったある織物工場に関する史料には、興味深い事実が記されています。約150名の織工が住み込みで働いていて、自前の炊事場も持っていたその工場では、周辺の約10戸の農家と下肥(しもごえ)の取引をしていました。工場の織工たちの糞尿を、大便と小便に分けて、農家に肥料として売り渡したり、織工たちの食事に使う大根などの野菜と物々交換したりしていたのです。工場の織工たちの「食べる」ことと「出す」ことが、周辺農家との間で循環的な関係を作り出していました。こうした循環的な関係は、当時の日本国内の至るところに存在していて、それらの多くは第二次世界大戦後の高度成長期の前まで続いていました。しかしその後、衛生面などが問題視され、厚生省などからの指導により廃れていきました。
多様性を許容し、最適な答えを探す
2015年の国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)には、「安全な水とトイレを世界中に」という目標が掲げられています。その実現によって環境が改善される地域はたくさんあると思われますが、あまりにも画一的なライフスタイルの普及と促進には、危うさもあります。地球上には、気候や環境、文化、宗教などによって、トイレひとつとっても、さまざまなスタイルが存在します。水洗でなくても、トイレットペーパーがなくても、その地域で通用しているのです。かつての織物工場と周辺農家が築いていたような循環型社会をヒントに、環境や文化の多様性を許容して、地域ごとに最適な答えを探していくことが、これからの社会には必要でしょう。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
法政大学 人間環境学部 人間環境学科 教授 湯澤 規子 先生
興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!
人文地理学、地域経済学、農村社会学先生が目指すSDGs
先生への質問
- 先生の学問へのきっかけは?
- 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?