波の動きを解析して、船舶や船員の安全を守れ!
2種類の波
海で生じる波には、近隣の風によって起きる「風浪」と、かなり離れた場所の強風や台風によって生じた波が海中を伝播(でんぱ)して押し寄せる「うねり」とに大別されます。発達して正弦波的な形状を有するうねりに対して、風浪は不規則でリアルタイムでの短期予測も困難です。風浪が甲板上に打ち込まれることにより、船舶のコントロールが困難になるケースが少なくありません。そこで「海洋数理工学」の分野では、複雑な波の動きを数理モデル化して、船舶の転覆や乗組員の海中落下などの事故を防ぐ研究が進められています。
変わってきた解析や予測の方法
複雑で不規則な波の動きを解析するため、従来は波に関する一部の要素から規則性を見い出し、コンピュータシミュレーションによって波全体に当てはめる手法が用いられてきました。ただ、シミュレーションの際に余計な要素まで含まれてしまうことが多く、正確な予測は困難でした。
近年は、実際の船舶で波と揺れとの数値を観測し、その数値に最も近い過去のデータを基準に「次に起きること」を予測する手法が用いられるようになりました。従来の手法と比較して、大きな横揺れを早めに予測できるので、減揺(げんよう)装置を適切に設定したり、乗組員が船から振り落とされないように備えたりすることが可能になりました。
あらゆる「海の防災」につながる
漁船の場合、波が高い時には甲板上にかなりの量の海水が溜まることがあります。また、魚を生きたまま運ぶため、船体内部に大きな水槽を備えた漁船も増えています。船が大きく揺れると、甲板上や水槽内の水の動きも漁船の安定性に大きな影響を与えます。それらの要素までシミュレーションするため、3Dモデルを活用した実験も行われるようになりました。
波の動きをより正確に予測できるようになれば、台風による高波や地震にともなう津波の規模や沿岸部への到達時刻を予測するなど、船舶事故以外の防災にも役立ちます。ただし「完璧な予測」の実現には、まだまだ時間が必要です。
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先生情報 / 大学情報
東京海洋大学 海洋資源環境学部 海洋資源エネルギー学科 教授 上野 公彦 先生
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