人や荷物や思惑を乗せて、船は行く
名前と国籍を持つ
総トン数が20トン以上の船は、国が管理する「船舶原簿」への登録が船舶法で義務付けられています。船舶原簿は船の「戸籍」にあたるもので、持ち主が付けた名前とともに国籍が登録されます。どの国にも属さない公海上を航行する際に、船上の人間が環境破壊や密輸といった違法行為をしないように、船の国籍を明らかにして守るべき法律や条約を課すためです。ほかに飛行機も国籍が登録される乗り物ですが、飛行機が番号で管理されるのに対して、船は必ず名前が登録されます。
どこの誰なのかを明らかに
船は工業化が進むはるか昔から乗り物として存在し、人々を乗せて国と国とを行き来していました。船に名前が付けられるのは、移動において古代から「どこの国の何者なのか」を明らかにしておく必要があり、その習慣が残り続けているからです。
その一方で、船員たちの国籍は多様です。経済合理性のもとで、できるだけ安い賃金で品質の高い仕事をする船員が求められるからです。ただし例外もあり、アメリカでは国内の海上輸送をする船は、アメリカの造船所で製造されて、船員の75%以上がアメリカ国籍でなければならないと定められています。自国の安全保障や産業保護が、経済合理性よりも優先されているのです。
「便宜上」の国籍を持つ船とは
船を所有する船会社にとっても、国籍は重要なポイントです。船会社は設立された国に登記されて、所有する船にもその国の国籍が与えられます。同様に船会社が、税制などのビジネス上都合がいい法律を持つ国に子会社を設立した場合は、子会社が所有する船はその国の国籍になります。子会社の船を親会社に貸すという仕組みで船を運航すれば、実質的に親会社は子会社の国の税制などのメリットが得られます。このような、事実上の船の持ち主(親会社)の国籍と異なる国籍を持つ船は「便宜置籍船(べんぎちせきせん)」と呼ばれます。国や会社の思惑が絡み合う便宜置籍船については、経済分野での研究も活発に行われています。
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