台風時の高潮・高波を工学的に分析し、町と命を守る社会基盤を造る
防波堤や堤防を造るには
台風の時、沿岸部の町には、堤防を乗り越えて海水が流れ込むと共に波が押し寄せ、被害をもたらします。町と人の命を守るには、水位と波の情報を正しく把握し、効果的な防波堤や堤防の建設が必要です。また、水位と波の情報は避難情報など防災にも役立ちます。そのためには、どんな規模の台風が来ると、どの程度の水位が上がり、どの程度の波が押し寄せるのか、正確に導き出す必要があります。その数値モデルは、台風の気圧や風速などを考慮し高波と高潮を予測するもので、十数年前に確立され現在のスタンダードとなっています。
高潮と波のシミュレーション
以前は、高波と高潮は異なる式を用いて別々に計算されていましたが、現在は2つの数式を結合させて同時に解いています。高波と高潮は同時に起きているので、その方が現実に即した予測を導き出せるのです。高波と高潮は、発生の要因やエネルギーが異なります。高波の原因は主に低気圧の発達による強い風です。高潮は、低気圧による海面の吸い上げ現象と、沖合のほうから風により海面が盛り上がって沿岸部へ押し寄せる吹き寄せ現象によって起こります。これに、大潮での満潮が重なると、大きな高潮現象が起こります。台風の中心気圧はもちろん、どこで発生したか、どのルートをたどるか、そのときの海水温度や、沿岸部の地形などによっても高潮と波は変化します。湾や港の地形、河口位置や大きさなどをデータ化し、台風情報を加味しながら、その地点の高潮と高波を予測します。
AIで誰もが予測できる時代へ
防災には、これらの計算の精度をより高め、スピーディーに情報提供することが大切です。データが蓄積できれば、土木の観点から湾内や港、町を守る堤防などの社会基盤を検討することができます。これからは、AIによる高波や高潮を予測する手法も不可欠です。AIはディープラーニングなどの仕組みがそれぞれ異なるため、異なる手法を検証する必要がありますが、AIでの予測が可能になれば、誰もが簡単に予測や避難ができる時代がくるでしょう。
参考資料
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先生情報 / 大学情報
熊本大学 工学部 土木建築学科 准教授 金 洙列 先生
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