有機合成化学が、難病治療新薬開発の道を開く
天然物を人工的につくり出す有機合成化学
菌が産生する物質や動植物の中にある天然物質の中には、人類にとって有意義なものが数多くあります。しかし、植物などから大量に取り出すのが難しい場合などに、いろいろな原料をもとに化学的に合成して同じ物質をつくり出すのが「有機合成化学」です。天然物質の一つで、昔から駆虫薬として使われてきたメキシコ産の植物の葉に含まれる「ハプロファイチン」は、50年前からその構造はわかっていましたが、多くの研究者がチャレンジしても合成できず、合成最難関天然物とされていました。しかし、2009年、この合成に世界で初めて成功したのです。
合成は、小さなブロックを組み立てるようなもの
ハプロファイチンの合成には、50段階くらいの反応が必要で、そのすべてを成功させなくてはいけません。49段階までうまくいっても、50段階目で失敗すれば、また前に戻って考え直さなくてはなりません。例えば、とても小さなブロックを積み重ねていって、完成形と同じにつくり上げるようなものです。組み合わせ方は無限にあるので、少し組み立てては戻り、また組み立てては壁にぶつかりといったことの繰り返しです。構造式を書きながら、どう結合させるかを考えたり、ちょっとずつ条件を変えて反応させてみたり、独創的なアイデアを考えつつ、三次元のパズルを解くように進めていきます。
より効率的に合成する「ステップエコノミー」
世界中の患者さんに薬を届けるには、大量かつ安価で薬を合成する必要があります。そのためには、「ステップエコノミー」という考え方が大切です。これは、合成の反応数を削減して、できるだけ簡単に合成する考え方です。反応が50段階もあると、コストが高くなり、医薬品としての開発は難しくなります。もし、一つのフラスコの中でいくつかの反応を連続して行い、全部で10段階程度で合成できるようになれば、採算ラインに乗せることができます。そうなれば、難病治療の新たな医薬品ができる可能性が広がるのです。
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