細胞のシステムを乗っ取る「RNAウイルス」
RNAウイルスと細胞の関係
新型コロナウイルスやエボラウイルスなどの「RNAウイルス」はときに人類の脅威となりますが、単体では遺伝子の断片にすぎません。細胞に侵入し増殖することで、体内で勢力を拡大するのです。ウイルスは細胞が持っている機能や材料を利用して増殖します。そのメカニズムがわかれば、その仕組みを抑制するような薬の開発に役立てることが可能です。
細胞のシステムを乗っ取る?
細胞内で子孫ウイルスがつくられ、細胞外に放出されるとき、もともといた細胞を傷つけないように自身を膜で覆って出芽します。このとき利用しているのが、宿主の細胞が持っている粒子形成や細胞分裂のシステムです。
例えばRNAウイルスの中には、ESCRT(エスコート)を使って出芽に必要な膜を作るものがいます。ESCRTとは細胞分裂に重要な役割を果たすタンパク質群のことで、ウイルスが出芽して細胞膜から離れていくときのシステムは、細胞分裂で細胞同士が切り離されるシステムと同じです。ESCRTを使う経路を断てばウイルスの増殖を抑えることができますが、細胞分裂も止まってしまいます。この課題を解決するために、ESCRTの経路を形成する約30種類のタンパク質の中から、細胞分裂に必要なものとウイルスの出芽に作用するものの特定が進められています。
ウイルスに擬態した薬の開発
RNAウイルスの研究は薬の開発にも役立てられています。ウイルス感染による重症化を防ぐための免疫には、比較的短期間しか持続しないとされる「液性免疫」と長期間続くとされる「細胞性免疫」があります。細胞性免疫を獲得するには、感染するか、ウイルスの遺伝子情報を人工的に細胞質に送り込まなければなりません。この送り込まれる遺伝子情報がmRNAワクチンです。一方安全性が確認されているこれまでのタンパク質のワクチンは、ウイルスとは異なり、そのままでは細胞質内には入れません。そこで、ウイルスが出芽するシステムを真似ることで、タンパク質を人工ナノカプセルに入れ、細胞内に届ける仕組みが開発されています。
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弘前大学 農学生命科学部 分子生命科学科 教授 森田 英嗣 先生
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細胞生物学、ウイルス学先生が目指すSDGs
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