科学研究に大きな変革をもたらした、コンピュータの発達

科学研究に大きな変革をもたらした、コンピュータの発達

実験・理論に次ぐ第三の手法

20世紀末まで、科学研究ではビーカーとフラスコを使った実験と、紙と鉛筆により構築する理論、この二つを用いて事象を解析していました。しかし、実験は何度も繰り返すとコストがかかり、危険もともないます。一方、理論を構築するにも、各研究の進んだ現在では方程式が難解になり、解くのに大きな労力が必要とされます。そこで1990年代半ばからはコンピュータを使い、シミュレーションにより科学的事象を解析する第三の手法を模索するようになりました。

分子構造が目で見えるように

どんな実験でも先にシミュレーションをして、ある程度の目星を付けておけば、ダイオキシンのような毒性のある物質も実験で必要以上に取り扱う必要はありません。また、さまざまな化学反応をアニメーション化することで、反応中の分子構造がどのように変化するのか、その過程も追えるようになりました。通常、化学反応は瞬間的に起こるため、実験では過程を目視することはできません。それがコンピュータで可視化できるようになったのは、研究において大きなメリットだと言えます。

コンピュータを使い、新薬の開発を

何らかの化学物質を作ろうとしたとき、目的とするものは同じでも、たどり着くまでの経路が1本とは限りません。ものによっては何千、何万と経路が考えられる場合があります。その一つひとつを調べていくのは大変です。ところが、シミュレーションを行えば、ベストの経路が判明するとまでは言えませんが、実験が可能な数まで経路を絞り込むことはできます。そのため、特に製薬会社ではシミュレーションを積極的に導入し、薬の開発期間を大幅に短縮するのに成功しています。また化学系の会社でも新たな機能性材料を生み出すために、シミュレーションを用いるところが増えてきました。コンピュータの高性能化に大きく寄与し、さらに高い強度から各製品への応用が研究されているカーボンナノチューブなどは、その機能性材料のひとつです。今後ますます多くの分野でシミュレーションが導入されていくことでしょう。

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横浜市立大学 理学部 理学科 教授 立川 仁典 先生

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メッセージ

学校教育による理系科学は物理・化学・生物・数学に分かれていますが、最先端の研究を志すなら、すべての分野に精通しておかなければなりません。とはいえ、好き嫌いは誰しもあるものです。そういう場合は、『Newton』のような雑誌をはじめ、いろいろなものに興味を持ち、触れておいてください。それとコンピュータはもっと発達し、現在のスーパーコンピュータの性能が、10年後、15年後には携帯電話くらい手軽なものになるはずです。そのとき私たちに何ができるか、何がしたいか、そのイメージを今から膨らませておきましょう。

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