アスピリン誕生から100年超、有機化学の今
薬効を示す有機化合物を人工的に合成
動植物や微生物が作る有機化合物の中には、抗がん作用などの特別な薬効を示すものがあります。その一方で、薬として開発するために必要な量を得ようとすると環境破壊につながってしまうなど、自然界から十分な量を得られない場合があります。そこで、人の手による合成で望む有機化合物を生み出すのが「有機合成化学」という学問です。有機化学は炭素・水素・窒素・酸素の4元素が基本になっていますが、化合物の種類は無限大で、多彩な化学反応が起こるため、研究は新しい発見の連続です。
19世紀から始まった有機化学の歴史
かつて、デンプンなどの有機化合物は生物にしか作れないと考えられていましたが、1828年に有機化合物である尿素を無機化合物から生み出す方法が発見されました。フラスコの中でも有機化合物を作れることがわかり、有機化学はそこから本格的に発展していきました。
日本でも市販されているアスピリンという解熱鎮痛薬は、世界初の人工合成で生まれた薬で100年以上の歴史があります。柳の木は古くから痛み止めとして用いられていましたが、薬効を示すサリチル酸という成分には胃痛の副作用がありました。この副作用が起こらないよう、人工合成で化学構造を変化させたものが、アスピリンという薬なのです。
可視光を使った、より効率的な有機合成への挑戦
現在、可視光を使った合成研究が世界各国で進められています。これまで紫外線を使った研究は行われていましたが、紫外線はエネルギーが高く、望まない反応が起こるというデメリットがありました。そこで、エネルギーの低い可視光、例えば蛍光灯の光を使い、これまで実現できなかった化学反応の開発に挑戦しています。複雑な有機化合物を作り出すには「原料Aに試薬Bを加えれば完成」といった単純な方法ではなく、多くの工程を必要としますが、工程が増えればそれだけ標的化合物の収量が下がります。可視光を使うことで工程数を減らし、有用化合物を安全かつ効率的に供給できる可能性があるのです。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
横浜薬科大学 薬学部 薬科学科 教授 庄司 満 先生
興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!
有機合成化学先生が目指すSDGs
先生への質問
- 先生の学問へのきっかけは?
- 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?