増殖しない・がん化しない心臓細胞から、がん治療の手がかりを探る
心臓細胞は、生まれた時から増殖しない
心臓には、まだわからないこと、「秘密」がたくさんあります。
ひとつは、心臓の細胞は生まれた直後からほとんど分裂せず増えないということです。ほかの臓器、例えば肝臓細胞や腎臓細胞は分裂して増え、修復したりします。皮膚の傷も皮膚細胞の増加によって治っていきます。唯一心臓の細胞だけが増殖せず、生まれてからずっと同じ細胞が一生働き続けています。どうしてそんなに長生きするのか、なぜ分裂しないのか、そのメカニズムは、まだわかっていないのです。
心臓は「がん」にならない唯一の臓器
もうひとつは、心臓は体の中で唯一、がんがない臓器だということです。ほかの臓器や筋肉、脳にも悪性腫瘍(がん)はできますが、「心臓がん」はありません。がん化のメカニズムは、これまでの研究で随分わかってきていて、関係する遺伝子が活性化されることと、プログラムされた細胞死と言われる「アポトーシス」のシステムがつぶれた時にがん化するのですが、心臓の場合、このようながんを起こす因子を入れる実験をしてもがん化しません。このびくともしない理由は何なのか。これも秘密のひとつなのです。
心臓細胞からがんの研究を進める
心臓の基礎研究の世界では、これらの秘密を解くことが心臓の病気やそのほかの病気を治す手がかりになると考えられています。例えば、がんがないという特徴から心臓をがんと対極にあるものと位置づけ、がんを発生しないようにする遺伝子のメカニズムを探る研究も行われています。細胞のゲノム(全遺伝情報)は全身のどこでも変わらないのですが、エピゲノムと言われる、DNAの塩基配列に後で修飾される情報によって身体のどの臓器になるのかが決定されます。心臓でも、このエピゲノムががんを抑制しているのではと研究が進められているのです。
まだまだ秘密が多い心臓研究には課題がたくさんあります。しかし、言い換えれば、研究対象としてとても興味深い分野でもあるのです。
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