経営効率だけでは説明できない東南アジアの農業
農業経営学だけでは、全体像はわからない
農業経営学とは、農業経営の発展を阻む原因を考えたり、十分な利益を得るための方法を考えたりする学問です。先進国の農業は、このような農業経営学の対象となります。ところが、東南アジアのような発展途上国では、農業経営学だけでは全体像をとらえることができません。というのも、利益を求めない自給自足的な農家が多く、「経営」というレベルに達していない場合が多いからです。そこで、このような発展途上国特有の問題は、地域社会や国の政策、あるいは経営環境の問題として考えることが必要です。
雨期、乾期があるカンボジアの場合
カンボジアは、雨期と乾期がはっきりとしています。農業は雨頼みであるにもかかわらず、灌漑(かんがい)率が低いため、雨が降らない時期が続くと作物は枯れてしまいます。一方で、雨期には洪水の危険性があります。そのため、水を有効に使うために、いつ種まきしていつ収穫するかという、気象サイクルに合わせた耕作パターンが約10種類あります。また、主食である稲作では大量の水が必要となるため、農家同士が協力して水を融通するために、国は協同組合を作らせることで、公平な水配分を行わせようとしています。
社会的な要因が農業発展を阻害する
しかし、カンボジアはポルポトの圧政で、お互いに協力するという経験が乏しく、また水路も無計画に作られたため生産基盤が損なわれています。水の使い方を巡っては、話し合いを行いますが、農業用水の上流と下流では水の行き渡り方に差があるため、調整がうまくいかず対立の原因になっています。共同施設を使用しているのに、恩恵を受けていないという理由で組合に非協力的な農家もあります。
もちろん、東南アジアのすべての農業がこのような状況というわけではありません。マレーシアのような先進地域では、効率的な農業を行っています。東南アジアでも、それぞれの国に応じた農業形態があり、問題を抱えています。ですから地域ごとの、きめ細かい調査・研究が必要になるのです。
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先生情報 / 大学情報
鳥取大学 農学部 生命環境農学科 国際乾燥地農学コース 教授 安延 久美 先生
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