何が生物の「再生能力」を決めているのだろう?
再生できないヒトの体
両生類のイモリは、大変再生能力が高い生物です。手や足、尾、心臓や脳まで再生できます。しかし、私たち哺乳類は、ほとんどの組織を再生できません。手を失っても元には戻らず、老化した脳や心臓は作り変えたりできないのです。
再生の際に、ポイントとなるのは細胞です。お母さんのおなかの中にいる間、細胞がものすごい勢いで増えて心臓は大きくなります。心臓は、全身へ血液を送るポンプなので、体に合わせた大きさになる必要があるのです。しかし、哺乳類の心臓の細胞は生まれたあとは増えません。体内では盛んに細胞分裂しているのに、生まれたら増えなくなるのは不思議なことです。
心臓の細胞が増えて、再生してくれたら……
ですから、心筋梗塞などで心筋細胞を失った場合には、心筋細胞は二度と増えず、再生ができません。もし、心筋梗塞を起こしても、死んだ心筋細胞のかわりに、元気なほかの細胞たちが増えて元に戻してくれたら、病気の前に近い生活を維持できますが、そうはいきません。一方、イモリの場合には、心筋細胞も増えて、1カ月もすれば心臓自体が元の大きさに戻り、再生されるのです。
遺伝子の「ON」と「OFF」が重要なカギ
両生類の心筋細胞は増えるのに、哺乳類の心筋細胞はなぜ増えないのでしょうか? それは、いくつかの遺伝子が「ON」にならないからです。お母さんの胎内では「ON」であっても、生まれると「OFF」になってしまいます。イモリは、心臓を損傷すると、これらの遺伝子が「ON」になるので、心筋細胞を増やすことができるのです。では、何がその「ON」「OFF」を決めているのでしょうか?
そこでイモリとマウスを比べて、「ON」と「OFF」の違いを決めるのは遺伝子そのものなのか、それともそれを指令する分子なのかを調べることで、再生の仕組みを解明する研究を行っています。この研究によって哺乳類の心筋細胞を再生させる方法が明らかになれば、全く新しい観点での再生医療への道が開けるでしょう。
参考資料
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鳥取大学 医学部 生命科学科 教授 竹内 隆 先生
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