さまざまな学問の成果で実現されている「文化財保存科学」

さまざまな学問の成果で実現されている「文化財保存科学」

さびには「良いさび」と「悪いさび」がある

過去の人類が残した文化財には、金属材料の中で鉄を使用した道具や装飾品があります。それらの多くは、発見されるときには腐食してさびが生成されています。そこで、鉄でできた文化財を保存するためには、さびの進行をくい止める必要があります。注意しなければならないのは、さびには「良いさび」と「悪いさび」があるということです。「良いさび」とはマグネタイトという物質で、鉄が腐食するのを抑制する働きがあります。さびなのにさびを防止するのです。一方、「悪いさび」はアカガネイトという物質で、こちらは腐食を進行させます。

さびを栄養源とする微生物も存在する

鉄遺物の腐食原因となるのは、水分や酸素、さらに塩化物などがありますが、これに加えて、土中にはさびを栄養源にする微生物が存在している場合があります。鉄遺物の腐食に対する微生物の影響を調べるためには、遺物が発掘された土壌の含水率、水素イオン濃度(pH)、微生物の生息確認などの情報を取得した上で、総合的な解析が必要です。このような調査をして、発掘したときの重量や形状、寸法などの状態を記録して、遺物が良好な状態で保存できるように保存処理を行います。

文系だけでなく理系分野の知識も集大成

遺物は、国の歴史、文化、芸術などが融合されて出来上がったものです。保存科学分野では、その遺物を対象にして腐食原因および保存環境を調査するために、化学、物理学、生物学などの自然科学分野の手法を使います。これらを通して得られた成果は、考古学や歴史学を始めとして、文系、理系を問わずさまざまな研究分野に貢献することができます。以上からわかるように、文化財の保存は、文系だけではなく、理系を含めたさまざまな学問分野の知識が集大成されて行われているのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

鳥取大学 地域学部 地域学科 国際地域文化コース 准教授 李 素妍 先生

鳥取大学 地域学部 地域学科 国際地域文化コース 准教授 李 素妍 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

地域環境学、考古学、歴史学

メッセージ

私の専門は文化財の保存科学です。発掘された鉄遺物の微生物腐食や、遺跡の土壌環境を調べることで、最適な遺物の保存方法を研究しています。文化財保存というと限られた目的のように思われるかもしれませんが、実はいろいろな学問分野と関連しています。考古学や歴史学はもちろん、金属腐食、化学反応、土中に含まれる微生物なども研究対象なので、自然科学分野も関連します。さまざまな知識が必要なので、ほかの専門分野から文化財保存に移る人もいます。ぜひ、多くの人に興味を持ってほしいと思います。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?

鳥取大学に関心を持ったあなたは

鳥取大学は、教育研究の理念に「知と実践の融合」を掲げ、高等教育の中核としての大学の役割である、人格形成、能力開発、知識の伝授、知的生産活動、文明・文化の継承と発展等に関する学問を教育・研究し、知識のみに偏重することなく、実践できる能力をつけるように努力しています。また、研究・教育拠点、幅広い専門的職業人の養成、地域の生涯学習機会の拠点、社会貢献機能など個性輝く大学を目ざし、地方大学にこそ求められるオンリーワンの研究開発を行い、社会に貢献し、国際的競争力を確保できる大学運営を目ざしています。