戦後、観光は誰によって、いつ始まった? 戦後日本の観光研究
「聖地巡礼」が始まったのは?
人気アニメの舞台や映画のロケ地を訪ねる、いわゆる「聖地巡礼」が人気です。それが戦後にいつ頃から始まったのだろうと調べていくと、明治の文豪が暮らしていた旧居などを巡る「文学散歩」にたどり着きます。野田宇太郎(のだうたろう)という明治生まれの詩人であり、文芸雑誌の編集者でもあった人物が、戦争や戦後の復興の中で失われた文化財を惜しんで戦後の町を歩いた記録です。
米兵のフラストレーションを解消するために
「文学散歩」の中に、野田宇太郎が日本を観光している米軍兵士とすれ違うシーンがあります。
当時の資料によると、日本の観光事業は第二次世界大戦末期に休止しますが、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の占領下で戦後すぐに再開されています。その対象は戦争が終わっても日本に留まり、家族の元へ帰ることができなかった米軍兵士たちです。米国の大統領には「早くパパを返して」という手紙が届き、日本では帰還を求めるデモが起こりました。観光は米兵のフラストレーションを解消するためのレクリエーションであり、福利厚生の一環だったのです。
観光は社会的・人文的にも重要な意義を持つ
一方で日本にとって観光は、GHQから許可が下りやすい平和的な事業であり、外貨を稼ぐ貴重な手段でした。アメリカの国立公文書館や議会図書館には当時のGHQの観光事業に関する資料が残っており、外国人観光客向けに戦争の被害が少なかった箱根、鎌倉、京都などへ観光ツアーが組まれていたことがわかっています。また、戦後の観光事業は、戦争中・戦後の混乱の中で傷んでいた文化財や、食料不足により一部畑に姿を変えていた国立公園を、観光を意識して再整備するきっかけにもなりました。観光は日本の復興にも重要な役割を果たしていたのです。
今、観光する側だけでなく、観光客を受け入れる地域の人々の暮らしも守る「サステイナブル・ツーリズム」が注目されています。今後ますます観光は社会的、人文的に重要な面を持つことでしょう。
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