16世紀のスペインに見る、文学と思想の関係
「太陽の沈まない国」スペイン
スペインは16世紀に「太陽の沈まない国」と称されるほどの版図を獲得します。それ以前の中世の時代、今のスペインの地にはキリスト教国だけでなくイスラム勢力の支配する地域が存在し、またユダヤ教徒も暮らしていて、さまざまな確執の中で宗教的・文化的な影響関係が生まれました。1492年、レコンキスタ(国土回復運動)を完了させたスペインは、キリスト教を柱とする帝国へと発展していきます。その中で中世の文化的遺産やルネサンス人文主義の成果などを吸収しながら新しい学問的息吹を育んでいきますが、宗教改革への対応から、それまでの宗教的・文化的な取り組みを改め、カトリックの「牙城」となることを目指します。
ルネサンスと対抗宗教改革
ルネサンス人文主義は、スペインの宗教や文学にも強く影響しました。例えば聖書の原典への回帰が標榜され、元々のテキストの内容を紹介する書物などが世に出ました。それまでの書物が基本的にラテン語で書かれていたのに対し、16世紀以降は数多くの書物がスペイン語で書かれるようになりましたが、その内容が当時の教会組織の見解や対抗宗教改革の方針と相容れないものであった場合、著者が投獄されることもありました。こうした書物に対する統制は現代における思想や言論の統制にも通じ、今の世界を見るための一つの視点を提供してくれます。
スペイン語の俗語文芸
ラテン語に対する俗語として位置づけられるスペイン語によって、宗教的なテキストだけでなく娯楽的な作品も数多く著されるようになります。例えば騎士道物語というジャンルが流行し、社会の諸相に影響を与えました。その一方で、そうした作品が聖俗に関する当時の規範に反するものとして批判されることもありました。このように16世紀の文献を研究し、それらが当時の思想、特に宗教思想とどのように影響し合っているのかを考えることは、当時の文学を考えるうえで重要な研究テーマと言えます。
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