知っている話をもう一度見直してみよう~児童文学のリテラシー~
本当は難しい児童文学の世界
昔話や絵本、国語教科書を通して、誰もが児童文学体験を有していますが、児童文学ならではの特徴を押さえないと表面的な理解にとどまってしまいます。では、児童文学作品を解釈するためのリテラシーとは、どのようなものなのでしょうか。子ども観の歴史やビジュアル・イメージなどの視点から、児童文学の世界をひもといてみましょう。
『桃太郎』のあらすじは?
あなたが知っている『桃太郎』はどんなあらすじですか。実は、桃を食べて若返った老夫婦から桃太郎が産まれる話が江戸時代にはポピュラーでした。このような性を匂わせる『桃太郎』は、子ども向きではないと思われた人もいることでしょう。しかしながら、「子どもの本はこうあるべきだ」などの児童文学をめぐる「常識」は、不変でもなければ普遍でもありません。そこで必要なのは、わたしたちが自分自身の児童文学観を問い直すということです。そうすることで、これまで親しんできた物語たちはいつもと別の顔を見せてくれるのです。
ビジュアルにも注目
大人向けの文学に比べ、絵本に限らず、児童文学は挿絵などのビジュアルをともなうことが少なくありません。先に取り上げた桃太郎は、現代の子どもたちが読んでいる絵本では、かわいらしく、幼く描かれていることが多いですが、明治時代に再話された作品では若武者の姿で描かれているものもあります。それぞれの時代で支配的な子ども観のもとで、さまざまな桃太郎像が描かれているのです。
さらに、イラストの構図にも注意が必要です。小学校の国語教科書には、レオ・レオニの『スイミー』のように絵本を原作とした物語が掲載されています。ここで注目したいのは、絵本では左開きが多いのに対して、教科書は右開きとなっているという点です。このことは、わたしたちの物語理解に影響を及ぼしています。
児童文学作品をめぐる時代背景やメディアとしての性格を踏まえながら、これまで読んだことのある作品を読み直すことで、ひと味違った読書体験ができるのです。
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先生情報 / 大学情報
神戸大学 国際人間科学部 子ども教育学科 准教授 目黒 強 先生
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