『赤毛のアン』や『ハリポタ』から読み解く、国や社会の時代背景
「孤児が主人公の物語」が人気の理由
文学は書かれた当時の社会状況を反映しています。例えば19世紀のイギリス児童文学からは、当時の子どもや女性が置かれた環境、移民や子どもの労働環境などが見えてきます。『家なき少女』や『母をたずねて三千里』など、孤児が親を探す物語は古くから存在しますが、親を不在にすることで子どもが自由に冒険できるようになり、親を探すという目的が生まれるのです。それは自分のアイデンティティを探すことでもあり、自己を探す旅というテーマはいつの時代も子どもをひきつけます。
実は社会派の児童文学
『家なき少女』で主人公のペリーヌは長旅の末に祖父の工場にたどり着きますが、そこでは劣悪な労働環境で多くの女性が働いていました。ペリーヌはその環境を改善していきます。ここには作者のエクトール・マロが持つ、低賃金労働への問題意識が反映されています。
『赤毛のアン』では孤児のアンが失敗しながら前向きに成長する様子が描かれています。アンの養母のマリラは頑固な人物として描かれていますが、アンを見守るなかで考えを改めるようになり、大人の成長物語としても読むことができます。
19世紀の学校小説の伝統に連なる『ハリポタ』
1990年代に生まれた『ハリー・ポッター』シリーズは、21世紀を代表するファンタジーでありながら、19世紀イギリスで誕生した「学校小説」のパターンを踏襲しています。 主人公は優等生でも劣等生でもない普通の男の子で、仲間との友情、先生との関係、スポーツを通してチームワークやフェアネスを学ぶといった典型的な形式を受け継いでいます。しかし、女性キャラクターもメインで活躍する点は、現代の女性の社会進出を反映しているといえるでしょう。
現代から過去を見ると、当時の常識が奇異に映ることもあります。現在の事柄も当事者には見えないけれど、未来から俯瞰すると見えるものがあるかもしれません。過去の文学作品を読み解くことは、物事から一歩距離を置いて、いろいろな視点からものを見る目を養うことにも役立つのです。
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先生情報 / 大学情報
日本女子大学 家政学部 児童学科 教授 川端 有子 先生
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