自分は探せる? それともここにいる?
自分は探すものではない
「自分探しの旅」と聞けば、あなたは何を思うでしょうか。「やってみたい」と感じるかも知れないし、「なんだか古い」「かっこ悪い」と考える人もいるでしょう。現代の若者に多いのは、圧倒的に後者のようです。このことから、一昔前の世代の考える「自分」と、現在の若者が考える「自分」に違いがあるのがわかります。
かつての「自分」、つまり「自分探しの旅」の「自分」とは、自ら作っていくものでした。彼らは旅という出会いの中で、理想的な自分を作っていこうとしたのです。しかし、現在はそうではありません。若者は絶対的な価値基準を持たないため、自分を作ろうとはしないのです。そこで彼らは、もとから生まれ持った自分を求めます。オーラや前世といった、スピリチュアルブームの原因はここにあるのでしょう。
他者が自分を保障してくれる
ではなぜ、絶対的な価値基準は失われるに至ったのでしょうか。その理由が、「多様性」です。あなたは、「自由にやりなさい」と大人からよく言われませんか。自由および多様性を重視する教育が、昔の普遍的で絶対的な価値基準に取って代わったのです。
それでは、教育が多様性を求めるようになったのは、なぜでしょうか。それは後期近代が、ものにあふれた社会だからです。そんな時代に産業界が必要としたのは、画一的な労働者ではなく、差異を生み出すことのできる、多様性を持った人物でした。そのニーズに応えるために、多様性を重視する教育が進められたのです。
多様性を求められ、普遍的価値観を失った結果、若者は自分を内的に、そして直感的にとらえるようになりました。内発的な直感が、彼らにとって絶対的なものになったのです。しかし、絶対的といっても直感ですから、非常に主観的で揺らぎやすいものです。そこでそれを肯定してもらうために、他者への依存度が高まったのです。自分を保つために、他者にたえず肯定してもらわねばならない。若者の発する「自分」という言葉の変遷からそんな現代の人間の姿が見えてきます。
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筑波大学 社会・国際学群 社会学類 教授 土井 隆義 先生
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