世界の歴史を変えた作品: 『ロビンソン・クルーソー』
児童書の原型となった『ロビンソン・クルーソー』
ダニエル・デフォーの『ロビンソン・クルーソー』は、18世紀のイギリスで出版されました。船旅の途中で難破したクルーソーが、漂着した無人島で28年間も生き延びる物語としてよく知られています。冒険物語としてのストーリーの面白さ、また市民の識字率が上がり、印刷コストが下がった当時のイギリスの社会情勢もあって、広い社会階層のあいだで非常に高い人気を集めました。また海賊版を含む大量のダイジェスト版も作られ、その中で子ども向けに出版されたものが、今日の児童書の原型になりました。
作品の広がり
後の時代になると、世界各国で翻訳されるようになり、日本語訳も江戸時代以来、何度も出版されています。原作以上に冒険的な要素が強調されていたり、飼い犬との交流や食物に関する関心が大きく取り上げられるなど、日本の児童書にも大きな影響を与えました。
また、イギリスやドイツでは原作の設定の一部を変更した、いわば二番煎じ、三番煎じの作品も多数書かれるようになります。少年たちが集団で島に流れ着く物語なども、この流れにあると言え、こうした「極限状態の中でのサバイバル」という設定は、その後の小説、映画、さらにはマンガやアニメにも受けつがれ、新たな広がりを見せています。
多様な発見をもたらす作品
一方、作品をよく読んでみると、クルーソーが必要以上に大量の動物や穀物を育てていたことがわかります。現代的な価値観から考えれば、こうした姿は「限りない増殖」を目的とするが故に、地球の持続可能性を脅かす資本主義の負の側面を表しているという指摘もできるでしょう。また、現地の人びとを武力で押さえつける、という側面は、ヨーロッパが帝国主義の考え方で世界中に植民地を作る営みとも深く関わります。このように、文化や経済、地域との関係や、同時代・後世の作品との比較といった視点を加えることで、『ロビンソン・クルーソー』だけでなく、さまざまな文学作品には新たな気づきをもたらしてくれるきっかけがあるのです。
参考資料
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日本女子大学 文学部 英文学科 教授(学部長) 佐藤 和哉 先生
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