イギリス児童文学のなかの「家・子ども部屋」の意味
イギリス児童文学のなかの「家・子ども部屋」
イギリスの児童文学では、家や子ども部屋や庭が舞台になっている物語が数多く見られます。児童文学の登場人物たちは、古い石造りの家のなかにある子ども部屋でさまざまな体験をするのです。イギリス児童文学において、家や子ども部屋や庭が象徴している意味を読み解こうと、研究が行われています。
別世界への冒険の入口と終着点
複数の作品から、共通して描かれている家や子ども部屋の意味合いが見えてきます。例えば冒険の「入り口と終着点」という位置づけです。フィリパ・ピアスの『トムは真夜中の庭で』では、夏休みに古い館に預けられたトムが、過去の子どもと出会って不思議な冒険をします。この作品で子ども部屋は、時間も場所も異なる別世界への入り口として描かれています。そして冒険を終えると、トムは元の世界の子ども部屋へと帰っていきます。
こうした描写はファンタジー作品だけに留まりません。イーディス・ネズビットが19世紀末に書いた『宝さがしの子どもたち』という作品は、6人の兄弟姉妹が没落した我が家を支えようと力を合わせる物語です。子どもたちは家を救うための方法を子ども部屋で考えた結果、宝探しに出かけます。この作品でも子ども部屋は冒険の入り口と終着点として描かれています。
子ども時代の象徴としての「子ども部屋」
子ども部屋で過ごす時間は子ども時代を象徴している、という見方もできます。20世紀初頭のイギリスでは、中産階級の子どもたちが過ごすのは子ども部屋であり、食事や遊び、睡眠など生活のほぼすべてがナニー(乳母)と共に子ども部屋で行われていました。しかし学齢に達すると、子ども部屋での遊びの世界から出て、(多くは全寮制の)学校に入らなければなりません。『くまのプーさん』のクリストファー・ロビンもそうでした。子ども部屋から出ていくことは、子ども時代の終わりを象徴しています。このような社会的背景も含めて、児童文学のなかの子ども部屋が象徴する意味合いを読み解こうとした研究が続いています。
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先生情報 / 大学情報
武庫川女子大学 文学部 英語グローバル学科 英語文化専攻 准教授 福本 由紀子 先生
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