「意識」はいつ生まれるのか
視覚と運動の関係
私たちの脳は、目に見えたモノの位置や状況を理解した上で身体を動かしているかと言えば、そうではありません。危険を察知した時に、無意識に身体が反応することはよくあり、見た情報を認識するための処理と身体運動の発現・調節に使うための処理が脳内でパラレル(並列)に行われていることがわかっています。見て認識するには時間がかかり、それより早く身体を動かす必要があるのです。では、なぜ認識には時間がかかるのか? それは、目にしたさまざまな物体のイメージを脳内の神経活動によってつくる必要があるからであり、出来上がったイメージこそが「(視覚)意識」です。
モノが見える仕組み
眼に入った光は網膜で電気信号に変換され、視神経を通って脳に伝えられます。脳内では視覚情報を処理する領域がたくさんあり、ニューロン(神経細胞)が電気信号を送受信し合います。ニューロンはまず視野の各部位の断片的な情報を処理し、それらが別のニューロンで組合(統合)されながら、知覚されるイメージがつくられていきます。この一連の情報処理が完了するまでには、100ミリ秒(0.1秒)以上かかります。つまり、モノを見てから意識が生まれるのは、100ミリ秒より後のことなのです。
「何かいる」と感じる理由
これを証明する実験を紹介しましょう。被験者の前に置かれたモニターに、縞(しま)模様の円(円図形)を短い時間表示します。表示するものが円図形だけだと、何の問題もなく認識することができます。ところが最初に円図形を表示し、その100ミリ秒後に、円図形を取り囲むドーナツ状の図形を表示すると、ドーナツ図形は見えるのですが、円図形を見ることができません。「真ん中にも何かあった」という感覚は残るものの、縞模様は認識できないのです。これは、最初に見た物体のイメージが意識としてつくられる前に、別の情報によって邪魔されたことを意味します。しかし、物体の存在だけは脳に情報が伝達されています。「姿は見えないが、何かいるかも」と感じる理由はここにあるのです。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
大阪大学 医学部 医学科(取材時) 教授 七五三木 聡 先生
興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!
神経科学先生への質問
- 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?