火星の秘密を解き明かした「高速イオンビーム」とは
火星の秘密を探る
2018年の夏、地球との大接近で話題になった火星では、さまざまな探査が行われています。その方法の一つが原子衝突のメカニズムを使った表面物質の分析です。アルファ粒子という非常に速い微細なイオンである「高速イオンビーム」で反応を調べたところ、火星の表面の一部が安山岩でできていることがわかり、かつて火星で火山活動が行われていた確証をつかんだのです。
ラザフォードの発見
高速イオンを用いた表面分析を理解するには、ラザフォードという科学者の100年ほど前の大発見を知る必要があります。薄い金箔(きんぱく)にプラスの電荷をもつアルファ粒子(高速イオン)を打ち込むと、ほとんどが金箔の向こうにすり抜けますが、ごくわずかに跳ね返ってくるイオンがあることをラザフォードは発見しました。詳しく調べてみると、金の原子の中心にある「原子核」に衝突して跳ね返ってきていたのです。原子衝突の研究はその後の100年間でさらに進み、イオンが跳ね返るスピードは、イオンを打ち込む物質によって変わることがわかりました。この性質を利用することで、さまざまな物質を特定できるようになりました。
表面を改質させることも可能
イオンを高速にするには、加速器という機器を使って1000~300万Vという高電圧をかける必要があります。通常はMeV(メガ電子ボルト)という電圧が加えられますが、これを1000分の1のkeV(キロ電子ボルト)にまで落とすと、イオンは物質の中の原子との衝突を繰り返し、やがて表面付近にとどまり、多数のイオンがたまることもわかりました。
近年ではこのメカニズムを利用して、物質の表面の改質が行われるようにもなっています。例えば、電気カミソリによく使われるTiN(窒化チタン)は、TiにNイオンを打ちこむことで、できあがります。TiN化合物をつくることにより、摩耗に強いカミソリの刃ができるのです。物質の表面を分析したり、表面の性質を変えたりすることができる高速イオンには、まだまだ大きな可能性が秘められています。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
京都工芸繊維大学 工芸科学部 物質・材料科学域 応用化学課程 教授 高廣 克己 先生
興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!
表面科学、材料科学先生が目指すSDGs
先生への質問
- 先生の学問へのきっかけは?
- 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?