ピコ秒単位の変化をとらえてタンパク質の機能する仕組みを解明
自然がもつ「分子機械」タンパク質の仕組みを解く
20世紀後半以降、化学は分子を正確に理解して物質をコントロールするという学問に変化してきました。その究極の形が、分子機械と呼ばれる「働く分子」の作製です。生体内でさまざまに機能する天然のタンパク質は非常に優れた分子機械です。しかし、タンパク質が働く仕組みが十分にわかっておらず、現段階ではこのような精度の高い分子を人工的に作ることはできません。そこで、タンパク質の反応過程を非常に短い時間に区切って細かく観察し、機能する仕組みを解明する研究が行われています。
変化をピコ秒単位で観測
タンパク質の大きさは光の波長よりも小さいため、光学顕微鏡で見ることはできません。そこで、試料となるタンパク質にレーザー光を照射して出てきた光を検出し、その波長の分布(スペクトル)を解析してタンパク質分子の形や結合の状態を読み取る「分光法」という測定手法を用います。タンパク質の反応では、最初の変化が非常に素早く起きます。特殊な実験装置により、反応開始から1ピコ(1兆分の1)秒単位でスペクトルを測定できるので、短い時間でのタンパク質の変化をとらえることができます。また、複数の実験装置を組み合わせて、速い反応から遅い反応まですべてを網羅できます。
新たに発見されたタンパク質も取り込む
スペクトルの解析結果からタンパク質の働く仕組みについての仮説を立てます。それをもとに、アミノ酸を入れ替えたり既存のタンパク質を組み合わせたりして人工的にタンパク質を合成します。この人工タンパク質の性質を調べて、仮説が正しいかどうかを検証します。天然のタンパク質と比較して機能に大きな変化があれば、作り変えた部分が重要な役割を果たしていることがわかります。
新しい機能をもった天然のタンパク質は次々と発見されています。それらもどんどん研究対象として取り入れ、将来的には天然のタンパク質を超える高い機能をもった分子機械を合成することが目標とされています。
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先生情報 / 大学情報
大阪大学 理学部 化学科 教授 水谷 泰久 先生
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