放射線で考古学の遺物を分析できる!? 素粒子ミュオンの可能性
放射線は考古学でも活用できる
放射線には、飛んだ粒子がものを突き抜ける特性があり、物質の分析を行う研究に活用されています。対象を壊さずに、中にどんな物質があるかがわかります。エックス線が有名ですが、ミュオン(ミュー素粒子)を使った分析も注目されています。ミュオンは50万分の1秒で壊れてしまいますが、壊れたときに出る光によってその物質が何であるかがわかるのです。考古学の史料として発掘された遺物でもそのままの形で中身を分析することができるので、博物館でも活用されています。
ミュオンで遺物を分析する方法
例えば2000年前の銅鐸(どうたく)が発掘されたとします。文明の発達の仕方を探るために、それがどこでどのように作られたものかを解明しようとするのですが、このとき考古学者が知りたいのは成分が何かということです。表面はさびていますが、サビになりやすい成分となりにくい成分があるので、サビだけ分析しても中身は特定できません。しかも貴重な資料なので削ったり穴をあけたりせずに分析する必要があります。そこで素粒子のミュオンを打ち込んで、止まったところで壊れて出す放射線の色によって物質を特定していくのです。炎色反応と同様に、元素によって色が変わるからです。またミュオンの優れたところは、磁場で分離することによって勢いを変えることができ、対象の深さに応じて細かい分析ができることです。しかし、寿命が短く、実験にはたくさんのミュオンが必要なので、日本国内にも大量にミュオンを作り出す実験設備が作られました。この手法は世界的に注目され、ヨーロッパでも追随する動きが出ています。
火山や小惑星も分析できる!
ミュオンで分析できるものは大きさを選びません。火山やピラミッドのように、大きくて中に入ることが困難なものも分析が可能です。また小惑星探査機はやぶさ2が採取してきた土を、カプセルを閉じたまま外気に触れさせることなく分析し、宇宙の生命の起源を探る研究にもミュオンが使われたのです。
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国際基督教大学(ICU) 教養学部 アーツ・サイエンス学科 教授 久保 謙哉 先生
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