細胞サイズの分子「ロボット」の制御
生体分子で組み立てる「ロボット」
「ロボット」と聞いて、どんなマシンをイメージしますか。2足歩行の人型ロボットを思い浮かべる人が多いと思いますが、細胞とほぼ同じ生体分子で作る、数ミクロンの大きさの「分子ロボット」が注目されています。研究は始まったばかりですが、実現すれば細胞サイズの分子ロボットが血液中を「泳いで」移動して、患部にたどり着いたら医療行為を行うという、まるでSF映画のような技術につながります。
「DNA」で、思い通りの動きや形を実現
「人工細胞」である分子ロボットを、人間の指令通りに制御するコントローラーとなるのが「DNAによる信号処理」です。中学・高校の授業では、「遺伝子」は生物の設計図、「DNA」は遺伝情報の格納庫となる高分子体と学ぶかもしれませんが、DNAは人工的に加工・合成することで、さまざまな「機能」を持たせることができます。
近年、DNAの螺旋(らせん)構造を加工して自由な形を作り出す、「DNA折り紙」という技術が注目されています。また、特定の波長の光を当てることで、構造が正確に変化するDNAも開発されました。これらの技術は、DNAナノテクノロジーと呼ばれますが、DNAを分子ロボットの信号処理回路に利用し、分子ロボットを制御するのです。
「分子ロボット」が人体内部で大活躍
さまざまな薬が開発されていますが、「患部だけ」に作用する薬はありません。抗がん剤のような強力な薬は、がん細胞だけでなくほかの細胞も攻撃してしまうので、強い副作用が現れます。
人間の指令通り動く分子ロボットが実現すれば、抗がん剤の成分をロボット内に格納し、がん細胞に到達したら薬を放出するといった、超ピンポイントの医療行為が可能になります。さらに技術が進めば、動脈硬化でふさがりかけている血管を内側から押し広げ、脳梗塞や心筋梗塞を防ぐこともできるかもしれません。
いくつかの課題があるのですが、それほど遠くない将来、人体の内部から病気を治してくれるような「分子ロボット」が完成すると期待されているのです。
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九州工業大学 情報工学部 知的システム工学科 教授 中茎 隆 先生
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