「衝撃波」によって物理と医療をつなぐ
薬剤を必要な分量だけ体内に投与
注射で薬剤を体内に注入する場合、薬剤が血管の中で薄まってしまうため、じゅうぶんな治療効果を得るためにはある程度濃度の高い薬剤を体内に入れる必要があります。しかし、そのために副作用が起こるなどのリスクが生じる上に、薬剤の値段も高くなります。このような問題を解決するために考案されたのが、「ドラッグデリバリーシステム(DDS)」です。DDSは薬剤を微小なカプセルに閉じ込めるなどの加工を施した上でその動きをモニターし、患部に到達したときにカプセルから薬剤を出す仕組みになっています。
衝撃波で体外から薬物をコントロール
このシステムを実現するためには、体外で薬剤をコントロールする必要があります。特に体に負担を与えることなくカプセルから薬剤を外に出す技術は重要です。その際に利用されるのが「衝撃波」です。衝撃波とは、音速を超えて空気や水などの中を伝わる圧力のことです。カプセルには薬剤とともに気泡が封入されています。カプセルが患部に到達したときに外から音波によって衝撃波を与えると、気泡が崩壊して「マイクロジェット」といわれる速いジェット流が生じ、それがカプセルの壁を破り、中の薬剤が流出するのです。この方法ならば、薬剤を本当に必要な分量だけ患者に投与することができます。
物理と他分野の連携は今後ますます広がる
DDSは今のところ研究段階ですが、衝撃波はすでに腎臓結石を粉砕する技術として、実際の治療に利用されています。ここで生かされているのは、波や圧力といった物理分野の成果なのです。また衝撃波は、iPS細胞を刺激してその増殖を促進させることで再生医療にも貢献しますし、遺伝子治療においてDNAの鎖を切るための手段としても利用可能です。医療以外の分野でも、食品や環境分野で、殺菌などのさまざまな応用が考えられます。このように物理と他分野の連携は、今後もますます進んでいくことでしょう。
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