治せない病気へのチャレンジ、再生医療で光を取り戻す
角膜は視覚情報の窓
眼球の表面にある角膜は、0.5mmほどの透明な組織です。ヒトは、外界からの情報の約7割を視覚から得ており、角膜が混濁すると視力が低下して日常生活に大きな影響を及ぼします。
角膜の病気の治療として、ドナーの角膜を移植する「角膜移植」がありますが、角膜上皮の組織幹細胞がなくなった患者さんには十分な効果が得られないことが悩みでした。そこで、「角膜上皮細胞をシート状に培養して移植する」というアイデアが生まれ、日本における再生医療の先駆けとなる技術が開発されました。
羊膜を使って角膜上皮細胞のシートをつくる
生体の角膜上皮細胞は、5~6層に積み重なったシート状の構造をしています。この構造は、まばたきや乾燥などの外的なストレスから、角膜を守るために重要です。角膜上皮の組織幹細胞をシャーレの上で培養するときには、このようなシート状の立体構造をつくることが難しく、長い間の課題でした。さまざまな材料を使った培養技術の開発が行われ、「羊膜」とよばれる母親の子宮内で胎児を包んでいる生体の組織を基質として使うことで、きれいな培養角膜上皮シートをつくることができるようになりました。さらには、患者さん自身の口の中の粘膜から、角膜上皮細胞のような細胞をつくることにも成功し、拒絶反応のない自己組織での角膜再生医療が実現しました。また、温度応答性培養皿を用いることによって基質を使わないシート移植も可能になっています。
日本の角膜再生医療は世界トップレベル
日本の角膜再生医療は、世界トップの実力を誇ります。日本では2000年頃から角膜や口腔粘膜を用いた培養上皮シート移植の臨床試験が行われており、その効果が確認されています。さらに最近では、これまで増殖しないと考えられていた角膜内皮細胞の培養技術が確立され、細胞注入移植による角膜内皮の再生医療の臨床試験が始まりました。目の病気に苦しむ世界中の患者さんに光を与えようと、さまざまな再生医学的なアプローチで研究が進んでいるのです。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。