細胞の外から受精卵の呼吸がわかる! 進化するセンサの世界
受精卵の呼吸を外から測定
生殖補助医療だけでなく家畜の繁殖の現場でも体外受精・体外培養が行われています。試験管の中にある受精卵がきちんと呼吸をしているかは、ひと目見ただけではわかりません。例えば、針状のセンサを細胞内に入れると酸素濃度などを調べることができますが、この方法では受精卵に傷をつけてしまいます。そこで、受精卵を傷つけず、細胞の外から酸素濃度を測定することが可能な、新たなセンサの開発が進められています。
センサの小型化で性能向上
センサの性能を上げるためには、電極の小型化が必要です。電極のサイズを数マイクロメートルほどに小さくすると、電流の密度が上がります。さらにフォトリソグラフィーという写真の現像にも使われている技術を利用すると、小型チップに多くの電極を入れることが可能です。その結果、センサの感度だけでなく処理能力も上がり、複数の項目を一度に調査できるようになりました。新たなセンサで呼吸を測定した受精卵は傷が付いていないため、継続的な培養だけでなく受精卵移植して母牛の胎内に戻すことが可能です。実用化にはまだ検証を積み重ねる必要がありますが、牛以外にもヒト生殖補助技術に貢献できると考えられています。
三次元で細胞の観察が可能に
このセンサは再生医療にも役立ちます。例えばバイオLSIという、電極が約400個搭載されている集積型のチップです。測定できるものの例として、ES細胞が挙げられます。ES細胞は神経や筋肉など体のあらゆる細胞に分化できる、再生医療に役立つ材料のひとつです。分化前後のES細胞の性質の変化や、体内の細胞と比べて違いがあるかなどは、バイオLSIで三次元的組織モデルを測定することで解明できます。従来は平面的なES細胞しか分析できませんでしたが、バイオLSIの登場で塊など立体的な形の細胞も分析が可能になりました。
このようにセンサなどの電気化学技術はバイオや医療分野はもちろん、環境保全、エネルギー分野など社会のあらゆる場面に貢献できる可能性があります。
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東北大学 工学部 化学・バイオ工学科 教授 珠玖 仁 先生
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