プロ野球選手は、どうして160キロの剛速球を打てるのか?
コンピュータでは困難な神業の秘密は脳にある
プロ野球選手は、どうしてあんなに速い160キロもの剛速球を打ち返せるのか、疑問に思ったことはありませんか? 「プロだから当たり前」「練習の積み重ねで身体が覚えた」など、いろいろと説明はできるでしょうが、その本当の答えは私たちの脳にあるのです。例えば、バッターと同じことをコンピュータにやらせたらどうでしょうか? ピッチャーのグローブを離れた球は、約0.4秒でバッターの手元にやってきます。コンピュータは、カメラがとらえた画像情報を解析して球筋を判定し、バットを出す最適な位置とタイミングを決めなければなりません。これには膨大な計算を高速に処理することが必要です。
運動前の無意識レベルで脳はすでに準備をしている
ところが、プロ野球選手はこの神業を難なくやってのけます。実は最近の脳の研究で、脳は身体を動かそうと意識する前の無意識のレベルで、すでに球の運動軌道を予測し運動の準備をしていることがわかってきました。脳電位や脳磁界など脳が発する信号を計測・解析すると、いわゆる「直感」のような運動の予測制御を行っているようなのです。しかし、こうした無意識レベルでの脳の運動指令が持つ意味や内容、そのメカニズムやアルゴリズム(問題を解くための手順)については、まだよくわかっていません。
脳の運動情報を取り出し「神経工学」へ応用
こうした脳で作られた無意識レベルでの運動関連情報を取り出して、医学や工学へ応用する試みも行われています。例えば、脳卒中などで体が不自由になりリハビリを行っている患者さんに、運動する前の無意識レベルの運動情報を視覚化して見せれば、その後の運動がスムーズになることが期待できます。また、この脳の働きを新しいコンピュータの設計に応用することで、人間のようにスムーズな動きができるロボットの実現も見えてきます。脳は、無限の可能性を秘めたフロンティアと言えるでしょう。
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