講義No.14487 医学

肝臓がん発症の未来予測と予防を目指して

肝臓がん発症の未来予測と予防を目指して

30回分裂すると早期がん

がんの始まりは、体内にできた1個のがん細胞です。細胞分裂により1個が2個、4個、8個と倍増して、約30回分裂するとCTやMRI、PETなどの画像検査で見つかる「直径1cm、重さ1g」になり、早期がんと診断されます。この時点で外科手術により摘出するのが理想ですが、見つかった大きさが100gや200gであれば進行がんと診断されて、抗がん剤(化学療法)や分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤などを使用した薬物治療も行われます。しかし、その効果が出る割合は2~3割程度と決して高くないのが現状です。

ゆっくり成長

がん細胞の分裂速度は、がんの種類によって異なりますが、平均して3カ月に1回です。30回分裂して早期がんと診断できるようになるまで90カ月、7年半ほどかかります。そこからさらに10回分裂するとがんは1kgの塊になり、人は死に至りますが、そこまで2年半しかありません。特に肝臓がんは年間約3万人が亡くなる難治性のがんであり、早期発見・早期治療が何より効果的です。
そこで今注目されているのが、画像検査が可能な1cmよりもっと小さい、「1mm」の腫瘍マーカーを発見できる検査薬です。1mmの段階から継続して検査をすれば、早期治療にもつながります。

膜成分で肝臓がんを予測する

その検査薬の特徴は、ほんのわずかな血液で検査ができることです。細胞が生きるために必要な膜成分を構成するラミニンというタンパク質に着目して、その中に発現する「肝臓がんに特異的な成分」を測定してがん化の未来を予測するという手法です。
また、肝臓がんの発生を予防する飲み薬の開発も進んでいます。肝臓を元気にする「HNF4A」というタンパク質は、同時にがん抑制遺伝子の働きを活性化させて、がん細胞の分裂周期を止める働きがあります。飲み薬として使うことでがんの進展を抑えられると考えられています。
かつて国民病とも言われた肝臓がんの発症を予測して予防する未来は、そう遠くはないのです。

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金沢大学 医薬保健学域 医学類 教授 山下 太郎 先生

金沢大学 医薬保健学域 医学類 教授 山下 太郎 先生

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消化器内科学

メッセージ

あなたが抱いている「興味」を大切に、前に進んでいきましょう。興味が何かわからない、ということもあるかもしれませんが、何より大切なことは、自分の進む方向は自分で決めるということです。結果として進んだ道が合わないと思ったらやり直せばいいのです。その時は合わないと感じていたことも、無駄だったかなと思ったことも、のちのち役に立つことはよくあります。その時々に、自分にできることを自分で選択して、進んだ場所で精一杯取り組みましょう。最終的には「成るようになる」はずです。

金沢大学に関心を持ったあなたは

金沢大学は150年以上の歴史と伝統を誇る総合大学であり、日本海側にある基幹大学として我が国の高等教育と学術研究の発展に貢献してきました。本学が位置する金沢市は、日常生活にも伝統文化が息づき、兼六園などの自然環境に恵まれ、学生が思索し学ぶに相応しい学都です。江戸時代から天下の書府とも呼ばれ、伝統の中に革新を織り交ぜて発展してきた創造都市とも言えます。「創造なき伝統は空虚」との警句を胸に刻み、地域はもとより幅広く国内外から来た意欲あるみなさんが新生・金沢大学への扉を共に開くことを期待しています。