デジタルヒストリーが解き明かす、知られざる日本
歴史的な史料を「正しく」読み込むには
歴史研究では、その時代に起こった出来事の記録や文献、伝承といった「史料」が重要です。しかし、その正確性が疑われることもあります。例えば、西遊記の三蔵法師のモデルとして有名な玄奘三蔵の絵巻に描かれている建築の様式は、後世で編さんした人々の先入観が入ってしまったことで、当時のものとは一致していないのです。文化情報学では、多角的、客観的な方法で史料を研究します。そのため、同時代の別地域で作られた複数の史料と照合して解析する「デジタルヒストリー」という手法が有効です。
データ解析からみえてきた「文観」像
鎌倉時代後期から南北朝時代に後醍醐天皇に仕えて、高い地位を得た文観という僧がいます。この文観の書き残した資料と、作者不詳であるものの文観の書き残した可能性が高い資料を、それぞれ「テキストマイニング」という手法で分析し、統計的に処理された情報をグラフに可視化して、テクスト間の差異の照合が行われました。その結果、特徴的な言い回しや頻出単語がほぼ一致したため、文観あるいは文観に極めて近しい関係にある人物の書いた資料であることが判明しました。文観は評価の定めにくい人物で、対立する北朝側の史料では俗悪な人物であったという歴史的評価が定着していましたが、近年の研究ではそうした人物像がくつがえってきています。デジタルな解析はこうした通説による印象に左右されず、データから客観的な事実を明らかにします。
客観的なデータが新しい発見を生む
テキストマイニングは歴史の研究に新しい着眼点をもたらします。データを解析して複数の資料を照合していくと、これまでは注目されていなかった人物の重要性が明らかになり、その時代のキーパーソンだった可能性が浮上することもあります。こうした発見の積み重ねや、史料の比較対象を、時代や地域、そのほかさまざまな条件で切り替ることで多角的な研究を続けていけば、今後も歴史の解像度はさらに上がっていくでしょう。
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