芸術作品をリードする劇場空間~感動を生み出す劇場の条件とは?~
アーティストも観客も、ともに育つ場所
音楽ホールや劇場は観客にとって芸術を鑑賞する場所で、そこで出会った作品の良しあしを語るとき、上演した音楽家や俳優のパフォーマンスに関心が向きがちです。しかし、劇場空間そのものに、作品の質を高めたり、観客や俳優を育てたり、さらには地域に文化を根付かせたりという大きな役割があるのです。
東京にある帝国劇場は明治44(1911)年に日本初の西洋風劇場として誕生し、オペラや新劇など新しいジャンルの芸術を提案してきました。そこから新しい表現や鑑賞スタイルが生まれ、数多くの音楽家や俳優、演劇関係者、観客を育てることになりました。
ジャンルごとに異なる劇場の音響的・視覚的条件
現在では多目的ホールも多いのですが、演劇、音楽など目的を決めた劇場であるほうが、上演する作品の質も高まります。
例えば歌舞伎では花道が必要ですし、日本の伝統的な人形劇である文楽なら人形遣いが立つ場所など、舞台の構造が決まっています。それに合わせ、俳優の所作や上演スタイルが継承されているのです。
また、コンサートと演劇でも必要な条件が異なります。例えば、劇場の大きさによって違いもありますが、音楽の場合、楽器から出た音が鳴りやむまでの時間(残響時間)が2秒くらい、演劇だとセリフが聞き取りにくくなるため1秒くらいが最適とされています。演劇ではさらに、俳優の表情が見えるよう700席程度の広さであることが求められます。
関わる人たちも「劇場空間」の一部
劇場は、建物や設備などハードの側面だけで成り立っているわけではありません。音響、照明などさまざまな役割の人が必要です。また、各劇場には専属のプロデューサーがいて、企画から制作費の確保、演出家や俳優の選定などすべてを統括しています。「人」も劇場空間の一部として、芸術作品を生み出す役割を担っているのです。
人生を変えるほど大きな感動を味わえる作品は、このように劇場空間のさまざまな条件が満たされて初めて生まれるのです。
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先生情報 / 大学情報
静岡文化芸術大学 文化政策学部 芸術文化学科 准教授 永井 聡子 先生
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