演劇は書斎で作られているのではない、現場で作られているのだ!
150年前まで劇場に電気による照明はなかった
ほんの150年ほど前まで、劇場では電気による照明は使われておらず、ガス灯やろうそくなど、照らせる範囲がわずかの火が用いられていました。今ではなかなか想像できませんが、当時はとても暗い中で上演がなされていたのです。なので、俳優も火の光の届くわずかな場所でしか演じることはできませんでしたし、広く動き回る演技はなかなか難しかったのです。当時の戯曲(演劇の台本は「戯曲」とも言います)はそうしたさまざまな条件の中で作られてきたのです。そうした戯曲を今日の常識で読んだり上演したりしてしまうと当然ズレが生じてきてしまい、ともすれば作品の本質を捉え損ねてしまいます。
シェイクスピアの戯曲を例に
さらに昔にさかのぼりますが、おそらくシェイクスピアがあなたにとって最も耳馴染みのある人でしょうから、彼を例にあげます。彼が活躍した時代のイギリスでは、芝居は長時間にわたって中断なしで行われていました。そうした歴史的な知識があると、例えば彼の戯曲の後半に主人公がしばらく舞台に登場しなくなるという謎があるのですが、それが出ずっぱりの俳優の休憩のためだという解釈と結びついたりします。また、実はシェイクスピアの戯曲でよくある、物語展開からすると一見ムダとも思えるシーンは、変装をする(着替えをする)ための時間かせぎのシーンだという解釈と結びついたりもします。さほど意味のない、しかし現場ではとても大事な事情であったりもするのです。俳優から文句が出ないように仕事を分配するために、劇の展開上はあまり必要のない人物や見せ場となる長台詞などがあったりするというのも現場の大事な事情でしょう。
現場の事情と歴史に照らして作品を理解する
今も昔も西洋でも日本でも、劇場の構造や科学技術や上演慣習や劇団の事情など、とても現実的な理由に基づいて演劇上演はなされるのです。芝居作りの現場に視線を向けつつ演劇の歴史をさかのぼって細部に着目していくと、現在の演劇もより深く理解できるようになります。
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玉川大学 芸術学部 演劇・舞踊学科 准教授 新沼 智之 先生
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