コロナ禍を経て、シェイクスピアの作品はどう変わっていくのか?
母国を出たことがない謎の作家
16世紀から17世紀にかけて活躍したシェイクスピアは、母国イングランド以外のヨーロッパの都市を舞台化し、世界各地で上演されながら、彼自身は一度も海外に行ったことがないと考えられています。世界にその名を知られる劇作家でありながら、その正体については未だ謎に包まれています。
作品が世界を旅する
その謎こそが、時代や地域を超えて劇的な変化を遂げてきた彼の作品を書き換える余白となり、大英帝国の発展によって世界共通語として成り上がった英語の恩恵を受けながら、彼の芝居は死後400年以上に渡って世界各地を旅し、西洋古典の粋としてのみならず、文化、教育、観光に及ぶグローカル・シェイクスピア産業を発展させてきました。英語が母国語ではない日本を含むアジア圏では、「原作」に囚われず、翻訳というより翻案という形で、自由に演じられるケースが多いと言えます。
シェイクスピア演劇とCOVID-19
1564年、黒死病が大流行する3ヶ月前に、イングランド北西にあるストラットフォードに生まれ、おそらくはその時に免疫をつけて生き抜き、エリザベス1世時代の1592年、ジェイムズ1世時代の1603年にロンドンを襲った二度のパンデミックで劇場が封鎖された間にも国内に留まり、隔離された環境で執筆を続けたとされるシェイクスピア。2020年以降、シェイクスピア時代の都市封鎖を想起させるコロナ禍のロックダウンにより、世界各地で移動、集会、営業、対面コミュニケーションが制限され、演劇公演の多くは延期ないし中止に追い込まれ、今も先行きは見えない状況が続いています。生身の身体を、観客の前で晒しながら、「いま、ここ」という一定時間を共有するという通常の演劇形態の前提が覆され、「新しい生活様式」と共にZoomなどを使った新たなる視覚芸術のあり方が問われる中、現在進行形ゆえに把握し難い状況を、「時代の鏡」とされる舞台芸術は、その鏡の形式と機能をいかに変容させ、何を映し出すのでしょうか?
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神戸市外国語大学 外国語学部 英米学科 教授 エグリントン みか 先生
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