地域の文化拠点に! 理想の公共文化施設を考える
多目的ホールか、特定のジャンルに特化した劇場か
現在、日本の各市町村には必ずと言っていいほど「市民会館」などの公共文化施設があります。その多くは多目的ホールで、クラシックコンサート、伝統芸能、ダンスなどさまざまなジャンルの作品が上演されています。誰もが気軽に芸術に出会う場として欠かせないものです。
しかし、多目的ゆえの弊害もあります。音響ひとつとっても、音楽と演劇では必要とされる条件が異なり、技術で調整することはできても、ジャンルによっては、演者たちの最高のパフォーマンスを引き出したり、作品の質を確実に観客に伝えたりすることが難しいのが現状です。
長期的な文化政策で地域独特の文化を育てる場
公共文化施設はその地域の文化を育てる役割もあります。そのため、ほかの地域と差別化して「わが町に伝わる文楽を継承する」というような長期的文化政策、それを実現する劇場や専門家も必要になります。
公平性の観点からは、音楽ファンも演劇ファンもと、多くの人が足を運べる施設であることは大切です。しかし、特定のジャンルに専門化した空間でも、質の高い作品に触れることでそのジャンルのファンが増え、結果的に多くの人に利用してもらえる劇場空間になります。
公共文化施設には文化拠点となる「仕掛け」が必要
例えば音楽に特化したホールで一流の音楽家を招いたとしても、なじみのない人たちは、最初はなかなか足を運んでくれません。しかし、ロビーでミニコンサートをすれば、子どもが騒いでも途中で帰っても構わないので、たまたま立ち寄った人が足を止めて聞いてくれ、クラシック愛好家になる人も増えていきます。市民のボランティアを組織してオリジナル作品を上演した事例もあります。
このように、日ごろから市民が気軽な気持ちで立ち寄れる場所にするための仕掛けが、公共文化施設には必要です。一流の作品に出合える、誰もが利用できる、地域の文化を育てる、という点がすべてクリアできると、理想的な施設と言えるでしょう。
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先生情報 / 大学情報
静岡文化芸術大学 文化政策学部 芸術文化学科 准教授 永井 聡子 先生
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