視覚を再生する電子の眼
光は脳で認識、視覚情報を伝えるのは電気信号
人間の体内では、電気信号が重要な役割を果たしています。目が見えるのは、網膜が光を電気信号に変え、その情報が脳に伝わり、脳が光を映像として認識するからです。網膜に疾患があると、情報の取得ができなくなり、視覚障がいになります。網膜の視細胞が変異する網膜色素変性という病気の患者さんは、日本だけでも約3万人います。このような患者さんに対して、電子工学を応用した人工網膜の研究開発が行われています。
なぜ、眼球内に人工網膜を埋め込むのか
現在開発が進められている人工網膜は、約1000の画素数をもつ集積回路(LSI)です。これを網膜の代わりとして眼球に埋め込みます。電気信号の受け手である生体の視細胞とは自然になじみ、特に複雑な配線をする必要はありません。この技術の最大の特色は、生体の機能を最大限に利用できることです。
人工網膜を体外に設置して、電気信号を直接脳に送り込む技術もありますが、この技術では、生体が持つ機能を忠実に再現することはできません。目は1秒に数回振動していて、目の前に広がる対象を認識しています。さまざまな研究が行われており、この振動がないと注目する視界と周辺が認識できないと言われています。体外に人工網膜を設置すると、本来、目がもつ重要な機能が使えません。
小型化を可能にしたLSIの立体化技術
人工網膜を眼球に埋め込むには小型化する必要があります。しかし、小型化するとセンサー部分まで小さくしなければなりません。この問題を解決したのが、集積回路を層にして立体化する技術です。センサーの面積をLSIの面積の最大まで広げることで、画素数を落とすことなくLSIを作ることができるのです。とはいえ、人間の網膜の画素数は1億以上もあり比べものになりません。また、カラー映像を生み出す電気信号の解析が終わっておらず、見える映像は白黒です。それでも、まったく見えないことに比べれば大きな違いです。技術的には課題が残されていますが、今後の発展が期待されています。
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