「左右逆転メガネ」をかけると歩けないのはなぜ?
私たちの行動・行為は意志が決めている?
「脳の働きによって、私たちは身体を意のままに動かすことができる」、さてこれは本当でしょうか。
例えば、「左右逆転メガネ(左右が逆に見えるメガネ)」をかけると、一歩も歩けない人がほとんどです。「左右逆である」という情報は知っていても、うまく身体を動かすことができません。立つ、歩くなどの基本動作は、目から入る情報を使って無意識に身体が反応しているからです。
脳は学習しないと情報を処理できない
歩行中、右足を上げると身体は左方向へ少し傾きますが、それと同時に、景色は左から右に向かって流れて見えます。この見え方を光学的流動とよび、脳はこれを「身体がどの方向にどの程度傾いた」という情報として身体のバランスを取るのに活用しています。ところが、左右逆転メガネをかけると、光学的流動の見え方は左右逆になります。例えば実際は身体が左に傾いているのに、脳は目に見える景色から身体が右側に傾いていると錯覚します。それに基づいてバランスを取ろうと身体をさらに左に傾けるため、転びそうになってしまうのです。このような脳による光学的流動の活用は私たちが赤ちゃんの時に見ながら立って歩く経験をすることで発達し形成されます。私たちの脳は学習によって情報の扱い方を学んでいくのです。
見え方を向上させる「アセチルコリン」
視覚は、受動的に目に入った情報を処理するだけでなく、活発に眼球を動かし、生きていく上で必要な情報を選択的かつ重点的に処理する能動的なプロセスです。近年、このような「アクティブ・ビジョン(能動的な視覚)」が研究されています。能動的な視覚は、受動的な視覚と脳の働き方が違うことがわかってきました。特に集中してモノを見ているときには、神経修飾物質「アセチルコリン」の分泌量が増え、識別力を高めることが知られています。逆にアセチルコリンの分泌量が少ないことで視覚認識障がいが生じるため、認知症や加齢による視覚障がいの治療薬として脳内アセチルコリン量を増加させる薬が使用されています。
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先生情報 / 大学情報
大阪大学 医学部 医学科(取材時) 教授 七五三木 聡 先生
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