大腸菌の恐るべき生き残り戦略とは
さまざまな大腸菌
動物には、細菌などの微生物が数多くすみついています。私たち動物は微生物と一緒に生きているといっても過言ではありません。そんな微生物の中に大腸菌という細菌があります。動物にすみついている大腸菌の多くは腸管にいますが、それだけですぐに病気になるわけではなく、大腸菌の一部が腹痛や下痢などの病気を引き起こします。しかし実は、それ以外にも大腸菌による病気はあります。というのも、腸管以外で病気を起こす大腸菌もいるからです。このように大腸菌といっても、さまざまなタイプがあるのです。
腸管以外の病気:鶏の大腸菌症
その端的な例が、鶏の大腸菌症です。この病気の多くの場合、大腸菌が呼吸器から入り、血管などを通して全身に運ばれます。この大腸菌は、腸管以外にすみつくことが可能です。さらにやっかいなのは、病気になる仕組みがよくわかっていないことです。大腸菌により下痢になる理由のひとつは、大腸菌が出す毒素だということがある程度わかっていますが、鶏の大腸菌症では病気の原因を特定できていないのです。この病気にかかった鶏は発育が悪く、動きも鈍くなります。養鶏業者にとっては商品(食肉)にならないので、多数が感染すると大打撃になります。
大腸菌が生き延びるための戦略
この病気を細菌の側に立って考えてみましょう。細菌にとって、自分たちが生き延びるためには、動物が持っている異物を排除する免疫メカニズムを回避したり、人や飼育動物に投与される抗生物質のような薬剤への抵抗力(耐性)を持ったりすることが有効な方法です。そこで大腸菌がそのような菌に変異したり、あるいはほかの菌から耐性や免疫回避に関連する遺伝子をプラスミド(細菌の染色体以外のDNA)とともに取り込んだりすることで、鶏に病気を起こしやすくなったと考えられるのです。しかし、その遺伝子の特定や機能の解明が十分になされていません。またそれだけでなく、細菌はウイルスに比べ遺伝情報が多いため、その仕組みを明らかにすることは簡単ではないのです。
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鳥取大学 農学部 共同獣医学科 教授 村瀬 敏之 先生
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