犬の心臓手術に臨床工学技士が参加するには

人間と動物の手術の違い
人間の心臓手術が行われるとき、手術室には臨床工学技士がいます。心臓手術では、心拍や血液の流れが手術の妨げにならないように人為的に心臓を止めますが、このとき心臓と肺の機能を、臨床工学技士が用いる「人工心肺装置」が代替します。
これが動物の心臓手術の場合、獣医師自身が独学や経験をもとに人工心肺装置などを扱っています。もし分野の垣根を越えて臨床工学技士と協力できれば、より適切に装置を動かして安全な手術ができるはずです。
壊れやすい血液にどう対処する?
ただし人間の心臓手術と同じ道具を同じ方法で用いると、動物の体が耐えられない可能性があります。例えば犬の血液は人間のものより強度が低いため、人工心肺装置で血液を送り出したり引き込んだりするときの圧力が高すぎると、赤血球が壊れてしまいます。逆に圧力が低すぎると、術後に腎疾患を起こしてしまう可能性があります。
そこで、犬の循環器系を模擬的に再現して「ちょうどよい圧力」を探る研究が始まりました。例えば血液の粘度に合わせたグリセリン溶液をチューブなどの中に流して、犬の心臓手術中の血圧を再現しながら血液の様子を確認します。さらに臨床工学技士が装置から血液にかける圧力を調整して、安全な領域を探ります。研究はまだ始まったばかりで、まずは心疾患の多い小型犬の心臓手術を想定して、適切な圧力が調べられています。
犬の状態に適した手術をめざして
動物専用の手術器具は少ないため、人工心肺装置のほかにも、人間用の道具が動物の手術に流用されています。すでに小児や新生児向けの道具が、小型犬の手術に使われてきました。しかし小型犬の体重は人間の子どもに近いものの、体内は高齢者に似た状態です。そのため小児と同じように手術をすると、犬への負担が大きくなる可能性があります。小型犬に適した道具の選定や、使い方のガイドラインを新たに作ろうと、獣医師と臨床工学技士が協力して研究が続けられています。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
