日本の農業は、大規模経営に転換できるのか?
自分の家の農地の場所を知らない世代が増えている
日本の農業の抱える課題を、経営面から解決するのが「農業経営学」です。
その研究の3つの例を紹介しましょう。1つ目は新しい技術による成果が、農家に本当にメリットがあるかどうかを評価することです。例えば、規模拡大を可能とする新しい技術体系の導入が農家にメリットがあるかどうかを検証します。2つ目は、農地の所有と利用の問題です。農家にとって農地は財産として代々受け継がれていましたが、現在は若い世代が農業に関わらなくなり、自分の家の農地の場所さえ知らないということが増えています。場所がわからないので農地を売ったり、貸したりできないという状況があるのです。
集落の力をあわせて水田農業の担い手確保を
そして3つ目が水田農業の担い手育成の問題です。後継者不足が深刻なことに加えて、米の値段は最盛期に比べて約半額にまで下がっています。そのため、残った農家が規模を拡大して、今までよりも安いコストで米の生産を行う必要があります。その取り組みのひとつとして、平野部に比べて生産条件が悪いといわれている中山間地域でも、集落を単位として農家を組織化し、規模の拡大を図る取り組みが行われています。
地域差を勘案した施策が必要
ところで、農家の集落の構造には地域差が確認できます。例えば鳥取県では農家がひとかたまりになっている地域が多く、住んでいる人たちはとても仲がよく、まるでひとつの家族のようで、集落を単位とした組織化の基礎に、このような人間関係があります。一方、広島県では農家世帯が比較的散らばっており、ひとつの集落の規模が小さいため、複数の集落が力を合わせて組織化に取り組んでいます。
このように集落を基礎とした組織化によって大規模化に取り組むとしても、基礎となる集落の構造(社会関係・人間関係)が異なるので、組織がうまく機能するためには経営管理の重点の置き方も変わってくるのです。全国画一的な方法ではなく、地域の条件を踏まえた、大規模農業への転換の可能性を探る必要があるのです。
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先生情報 / 大学情報
鳥取大学 農学部 生命環境農学科 里地里山環境管理学コース 教授 松村 一善 先生
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