「災害弱者」とは誰か?-28年目の阪神・淡路大震災の現場から
「災害弱者」とは誰か?
1995年の阪神・淡路大震災以降、被災地では「創造的復興」のスローガンの下、安全で暮らしやすい街づくりが進められましたが、問題もありました。例えば、住居を失った被災者のためにたくさんの復興住宅がつくられました。高齢者や健康問題を抱えた人が多く集められたのみならず、復興住宅に移り住むことで、それまでの地域とのつながりを失ってしまい、孤独で不自由な生活を強いられ、助けを求める相手もいない「孤独死」に至った例が少なくありませんでした。こうした経験から「災害リスク」を抱えた「災害弱者」をどのように考えるべきかという議論があります。
差別や排除の構造
実際、こうした問題化の仕方で見えなくなる現実があります。例えば、同震災の被災地には長らく被差別部落と呼ばれてきた地域があり、多くの在日外国人も暮らしていました。その中には未だに川の氾濫などの災害リスクが高い地域に暮らすことを余儀なくされる環境があります。さらに、もともと不安定な生活を強いられた人ほど、地域とのつながりを失うことで被るダメージも大きく、より苦しい状況に追いやられやすいこともわかっています。阪神・淡路大震災以降、「多文化共生」の重要性も盛んに叫ばれるようになりましたが、震災以前からあった差別や排除の構造は、現在も形を変えて残り続けています。元々「弱い」人がいるわけではなく、社会が「弱さ」をつくりだしてきたのです。
「復興」を問いなおす視点
大規模災害からの復興には優れた復興政策が欠かせません。しかし政策だけに着目していると、災害による地域の暮らしや政策の変化によって苦しい立場に置かれる人たちの存在を見落としてしまうことがあります。社会学の研究では、当事者と生活を共にし、さまざまな人たちと交わりながら、現場で起こる出来事や人びとの思いを調査し、分析します。そして、人間自身がつくりだしている差別・排除の問題を、政策を含めた現場の視点から論じなおすことで、別様にも「ありうるかもしれない社会」の可能性を示しています。
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鳥取大学 地域学部 地域学科 地域創造コース 准教授 稲津 秀樹 先生
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