微生物が、有益な物質の生産工場になる!?
油をつくる微生物
微生物の中には特殊な能力を持つ種がいます。モルティエレラはカビの一種ですが、体内で油をつくり貯蔵する能力を持っています。その油とはアラキドン酸という脂肪酸です。これは脳の働きに欠かせない栄養成分で、赤ちゃんのミルクへの配合が推奨され、高齢者の脳の働きを高める効果も期待されています。
グルコースなどを栄養源とするモルティエレラは、体内でアラキドン酸を球状の袋に溜めています。自分のエネルギー源として貯蔵していると考えられていますが、アラキドン酸がなくても生きていけるので、なぜ溜めているのかは今後の研究に委ねられています。
低温でも生きていける
土の中に生息しているモルティエレラを、多くの微生物の中から探し出すのは難しくありません。低温に強いので、冷蔵庫のような4℃ぐらいの環境に1カ月ぐらい放置しておけば、ほかの微生物は低温では活動できずに休眠状態になってしまい、モルティエレラだけが菌糸を伸ばして生育していきます。低温でも生きていけるのは体内の油成分が効果を発揮しているのかもしれませんが、詳しいことはまだ解明されていません。
微生物の可能性は、まだまだ未知数
モルティエレラに薬剤処理を施して遺伝子変異させれば、アラキドン酸以外の脂肪酸をつくり出すことも確認されています。魚に含まれているエイコサペンタエン酸(EPA)は頭脳の活性化に効果があると言われていますが、モルティエレラもこのエイコサペンタエン酸を生み出す能力があるのです。海洋性の微生物がエイコサペンタエン酸をつくり出すことがわかっていますが、陸上のどこにでもいるモルティエレラから採取できれば、生産性は大幅に向上します。
モルティエレラの特殊能力が注目されたのは、1980年代になってからです。現在の研究では、培養できる微生物は微生物全体の10%にも達していません。まだ人間がその能力に気づいていない微生物がたくさんいて、その有効活用の可能性に大きな期待が集まっているのです。
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徳島大学 生物資源産業学部 生物資源産業学科 教授 櫻谷 英治 先生
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