「海の掃除屋」を探せ! 汚染物質を食べる微生物

「海の掃除屋」を探せ! 汚染物質を食べる微生物

海に潜む「掃除屋」

化学物質でできた日焼け止めを塗って海に入ると、その成分が海水に溶け出します。私たちの肌を守ってくれるものが、実は海を汚しているのです。ほかにも、船のエンジンから漏れる石油やマイクロプラスチックなどにより、海水浴場や港といった沿岸部の海水は常に汚染されています。それでも汚れる一方ではないのは、海水中で暮らす微生物が掃除してくれているからです。海水1滴の中には無数の微生物がいます。その中には汚染物質を分解して食べるものがいるのです。

やっかい者もごちそうに!

汚染物質の中でも特にやっかいなのが「多環芳香族炭化水素」と呼ばれる成分です。これは石油に含まれる複雑な構造を持つ物質で、発がん性が高く、自然環境中では分解されにくいとされています。最近、沿岸海水の中から、この物質を分解して栄養源にできる「サギチュラ」という細菌が発見されました。さらに、この分解能力をつかさどる遺伝子が、世界中の海に広く生息する「ロゼオバクター科」の細菌間で共有されていることが明らかになりました。この遺伝子が微生物同士で交換されて、やっかい者の分解に貢献している可能性があるのです。
石油由来だけではなく、プラスチックや医薬品などの汚染物質を分解できる微生物の探索も進められています。複数の微生物が協力して汚染物質を分解する例もあり、「メタゲノム解析」という手法を使って、微生物同士の役割分担や相互作用も解明されつつあります。

身近な海から生まれる新発見

2000年代に入ってゲノム解析技術が発展したことで、微生物の研究が一気に加速しました。とはいえ、海の微生物の多くは培養が難しいために、身近な沿岸部であっても、そこにはまだ名前もつけられていない微生物がたくさん存在します。そのため、採取した海水から新種の微生物が見つかることも珍しくありません。身近な環境から、生物学と環境保全の両面で世界に誇れる新たな発見が生まれる可能性が秘められているのです。

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横浜市立大学 理学部 (大学院 生命ナノシステム科学研究科) 准教授 守 次朗 先生

横浜市立大学理学部 (大学院 生命ナノシステム科学研究科) 准教授守 次朗 先生

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微生物生態学、環境微生物学

メッセージ

高校までに学ぶことと大学で研究することには大きな違いがあります。実際に大学で学び始めると全く違う分野に興味を持つことはよくあることです。ですから、興味の対象を早くから絞り過ぎず、さまざまな分野に触れる機会を大切にしましょう。高校で生物を選択していなくても大学で生物学を専攻できますし、その逆も可能です。大学に入ってから新しい世界が広がり、思いがけない出会いがあります。好奇心を持ち、幅広く学ぶことが、将来の可能性を広げる第一歩です。

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横浜市立大学は、「実践的な教養教育」を導入しています。高度な専門知識を教養教育を通じて身につけ、バランスのとれた人材育成を図る教育システムです。日本を代表する国際港湾都市に位置する大学として、世界に羽ばたく人材の輩出を目的に、国際感覚を養うさまざまな取り組みも充実しています。個々の可能性を最大限引き出すための厳しい教育プログラムを愛情を持って進めていきます。