細胞の大半を占める水。その秘密はほとんど知られていない
生命を理解するうえでの「水」の重要性
生命を解明するうえで、「水」は不遇な扱いを受けてきました。細胞の仕組みを考えると、それがよくわかります。細胞は細胞膜、染色体、細胞質、リボソームなどといった部品でできていますが、大部分を占めるのは水です。しかし、その働きはほかの分子ほど解明されていないのです。確かに化学的な理解では、水は化学反応の一要素にすぎません。しかし、細胞が常に水の中で活動していることを忘れてはいけません。もし細胞内外に水がなく真空だったら、細胞は生き続けることはできないでしょう。水の重要性の理論的解明が進めば、生命現象を理解するうえで大きな進展となるはずです。
生命現象を物理学的に理解する生物物理学
このような問題を研究テーマにするのが、「生物物理学」です。生物学に物理学の考え方を持ち込むこの学問は、例えば、細胞を構成するタンパク質や核酸が水の中でどのような影響を受けるかを分子レベルで解明します。研究は、理論を構築し、コンピュータで計算シミュレーションを行い検証するという手法で行われます。上の例で言えば、コンピュータ上で分子を仮想的に動かすことで理論を検証していきます。これは、実際に細胞を用いるなどの実験を必要とする生物学的な研究とは大きな違いがあります。このことからわかるように、この学問は実証的研究というより分子レベルの理論から理詰めでさまざまな性質を導き出す研究を含むと言っていいでしょう。
生命現象は、いろいろな研究によって解明が進んでいます。ただその多くは、「脳は情報処理を行う」というような機能の発見の集積です。それが分子レベルでいかに行われるのか、なぜ行われるかの解明はそれほど進んでいません。生物物理学は、この「いかに・なぜ」という部分での解明を進めます。その点では、より根源的な「生きている」ことに直接取りくんでいる研究と言えるでしょう。
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九州工業大学 情報工学部 物理情報工学科 准教授 入佐 正幸 先生
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