遺伝子組換え生物で、機械よりも効率的な環境分析ができる?
細胞は優秀な「センサ」
細胞は生物を構成する基本単位であり、それ自体が一番小さな生命体でもあります。そして細胞には、周囲の温度変化や化学物質の有無など、環境の変化を感知する「センサ」の働きを持つタンパク質があり、自分がどういう環境に置かれているのかを常にモニタリングしています。
例えば、これらのタンパク質が有毒な物質を検知した場合には、それを無毒化する別のタンパク質を合成するよう遺伝子に働きかけるなど、遺伝子の発現を制御しているのです。この性質に、遺伝子組換え技術を組み合わせれば、機械よりも効率の良い環境分析システムを作り出せる可能性があります。
機械よりも低コスト
一見するときれいな水でも、分析してみると環境基準を超える汚染物質が含まれていることがあります。そうした水を利用する場合、人間が定期的に水質をチェックしなければならず、分析機器のメンテナンス費用や電気代、人間の労力など、さまざまなコストが発生します。では、細胞のセンサ機能と遺伝子組換え技術を組み合わせれば、どのようなことが可能になるでしょうか?
例えば水生生物の遺伝子を組換え、汚染物質を無毒化するタンパク質と緑色に光るタンパク質とを同時に作り出すことで体が光るようにすれば、その生物自体が汚染物質に対する環境分析機器の役割を果たしてくれることになります。生物なので、機械のような稼働・メンテナンスコストはかかりません。その上、どれだけ光っているか、その状態を見るだけで汚染レベルが判断できるのです。
実用化への課題
ただし、こうしたテクノロジーを実用化するには、まだまだ課題もあります。まず遺伝子組換え生物を作ること自体の倫理的な問題があります。技術面で言うと、遺伝子組換え生物の第一世代の汚染物質で体が光る反応という特性が、無事に子孫に受け継がれるかという問題もあります。また、その生物の拡散防止措置をしつつ実験を行うなど「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」に抵触しないようにしなければなりません。
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城西大学 理学部 化学科 教授 森田 勇人 先生
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