運動が薬の代わりになる日がくる? 治療の幅を広げる理学療法
あの野球選手の怪我は手術がいらなかった?
再生医療などの医療技術の発展により、怪我に対して手術を適用しない治療法が注目を集めていますが、理学療法では運動という視点から治療に貢献することができます。
例えばメジャーリーガーの大谷翔平選手と田中将大選手が経験した肘(ひじ)の靭帯(じんたい)損傷という怪我があります。大谷選手が手術をした一方で、田中選手は手術をしない保存療法を選択しました。田中選手が選択した治療法は自身の血液から損傷した組織を治癒する成分をとりだして肘に打ち込む治療法だったといわれています。これと同様の効果を、適切な運動により導くことができる可能性があることがわかってきています。この技術の発展により未来の医療が変わっていく可能性があります。
理学療法が広げる治療の選択肢
スポーツ選手に多い、膝(ひざ)の前十字(ぜんじゅうじ)靭帯損傷という怪我があります。手術をしないと治らないと考えられてきましたが、理学療法の研究結果から手術以外の治療の可能性が見えてきました。実験で前十字靭帯を損傷させた動物に、関節の異常な運動をサポートする介入を行い飼育したところ、今まではつながらなかった靭帯がまたつながったのです。
損傷の位置や程度による治癒の可能性といった研究データが現在はまだ不足しているため、現状では保存療法を実践している病院はほとんどありません。しかし保存療法の適用基準を定めるための基礎研究、靭帯が治るプロセスを科学的に解明する研究、そして研究結果をもとにした装具の開発などが進められることで、近い将来、患者さんに手術以外の選択肢を提示できるようになるでしょう。
運動が薬になる未来をつくる
理学療法士が患者さんに適切なタイミングで適切な運動を指導することで、治癒反応の促進が期待できます。理学療法には、リハビリという側面だけではなく、医学的な治療にも貢献できる可能性があります。さらに、これまでは治らないと考えられていた怪我を「実は治せる」ということを解明していくのも理学療法学の魅力です。
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埼玉県立大学 保健医療福祉学部 理学療法学科 准教授 国分 貴徳 先生
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