情報は下水にあり! 感染症の流行をいち早くキャッチする
下水に含まれる微生物の遺伝子解析
疫学調査の手法に、下水をモニタリングすることで、感染症の発生や流行を把握する「下水サーベイランス」があります。下水にはその地域に住む人々の排せつ物が集まります。下水に含まれる微生物を調べれば、地域の人々の健康状態や感染症、薬剤耐性菌などの発生状況を知ることができるのです。
下水にどのような微生物が含まれているかの分析には、「メタゲノム解析」を用います。下水から抽出した細菌やウイルスの遺伝子の混合物を、分離培養せずに網羅的に塩基配列を決定します。これをデータベースと照合して、どのような薬剤耐性遺伝子がどれだけあるか、どのような変異株の遺伝子があるかなどを調べます。
新型コロナウイルスの感染情報を把握
感染症を引き起こす病原体や抗生物質が効かない薬剤耐性菌については、医療機関でも監視が行われていますが、そこでわかるのは病院に来た人のデータだけです。これに対し、下水調査では地域全体の状態がわかります。例えば、新型コロナウイルスが日本ではやり始めた頃、まだ感染者数が10万人あたり1人以下と発表されていた時点でも下水からはウイルスが検出され、調査地域に感染者が発生していることがわかりました。このことから、今後新しい感染症が発生した場合にも、下水調査により医療機関よりも早く発生を感知できると考えられます。また、新型コロナウイルスについては、下水調査で得られたデータをもとに自治体が流行情報をSNSで配信する取り組みも始まっています。
薬剤耐性菌の分布を調べる
一方、薬剤耐性菌については地域ごとの調査が行われています。流行している薬剤耐性菌の種類がわかれば、病院でどの抗生物質を処方すればよいかの判断に役立てることができます。また薬剤耐性菌は、今後アフリカやアジアで深刻な問題になると予想されています。世界規模でデータを収集し、めざすところは、人の行き来や畜産物・養殖水産物の輸出入と薬剤耐性菌の分布との関連性の解明です。
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先生情報 / 大学情報
金沢大学 理工学域 地球社会基盤学類 教授 本多 了 先生
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先生への質問
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